第8話 人と話しをする時は目を見て話しましょう
「改めて、こないだは魔法で怪我を治してくれてありがとう、クレア嬢」
「いえ、とんでもないです。お礼にこんなお店に連れてきてくださるなんて、むしろ恐れ多くて」
「気にしなくていいよ。お礼したかった気持ちは本当だけど、実はクラスの人ともっと交流を持ちたかったんだ。見ての通り、僕の剣術は並みだし、魔法も使えない。アルヴァン殿下やジョルジオ様とも近づくきっかけがなくてね」
なんとか平常心を取り戻し、私が注文したのを確認したスイフト様が切り出す。
確かに特定の人同士でしか交流がないんだよね、クラス全体的に。
でも剣術も魔法もダメとなると、なぜAクラスに入れたんだろう?
クラスメイトを見ると確かにハイスペックな人達ばかりに思えるけど、剣、魔法、学力の総合で見るとやや怪しい人もいそうだ。
政治的な圧力やお金の可能性はある。
では、スイフト様は?
「そうなんですか? それだとAクラスに入れないはずでは?」
え? クレアさん、ストレートにそれ聞いちゃいます?
「ははは。随分ストレートに聞くね。実はね、僕は戦術を評価してもらったんだ」
「魔物討伐の際の指揮官候補、ということですのね?」
「あ、うん」
態度あからさますぎやしませんかねぇ? ちょっとこっちにも興味を持ってもらおうかな。
「剣術は並み、魔法は使えない。そんな方の指示に、Aクラスの皆様は従うのでしょうか? わたくし心配でなりませんわ」
「へぇ、フローレンシア嬢は面白いことを言うね。こう見えて父からは人の使い方を学べと教育を受けてる。それに戦術を評価されてAクラスに入っているからね。むしろ従ってもらわないと被害が出てしまうよ」
「そうかもしれませんわね。それで、魔物を狩ったことはございますの?」
「ないね。何か問題が? それに二人もないだろう?」
「わたくしは勿論ありますわ。クレアもあるでしょう?」
「私は怪我人が出た時のために着ついていって解体するくらいでしたけど」
「え? 二人とも経験あるの?」
「我が家は男爵家ですから、立派な騎士団などおりません。ですので、魔物が頻繁に現れるようになれば当然家臣とともに狩りに出ますわ。わたくしはそれなりに魔法が使えますから、わたくし自身が積極的に狩りをしていましたわ」
男爵領には騎士団なんてお金のかかる物は存在しない。
各街の警備兵くらいしか常備軍はないのだ。
魔物狩りに警備兵を全員連れていってしまうと今度は何かあった時に街を守れない。
それに、魔物という脅威に対抗するには強力な魔法が一番効率が良いのだ。
ちなみに領館で働く家臣達は全員戦えたりする。
もちろんサラも。
スイフト様よりは強いんじゃないかな。
実はメイド兼護衛なわけです。
「へ、へぇ……」
あ、その体でって思ったな?
「他の動物もそうですけれど、死に瀕すれば魔物は驚くほど強い力を発揮します。それに初めての狩りですと、血の匂いでも平常心でいられなくなる方も多いいですわ。スイフト様はそんな経験もなくとも、大過なく指揮をとれるとお思いですの?」
「ぐっ……」
ちょっと詰めすぎちゃったなぁ。
フォロー入れないと。
「今回交流を持てたことも何かの縁です。ですから、実際にわたくし達と一緒に魔物狩りをしてみるのは如何でしょうか。わたくし戦術のことはわかりませんが、学院が認める方ですもの。現場さえ知ってしまえば、きっと大活躍されるに違いありませんわ」
「……っ。フローレンシア嬢がここまで手厳しいなんてね。僕は君を見誤っていた。いや、ちゃんと見てすらいなかったんだね。謝罪する。
それにせっかくこの場で交流を持つことができたんだ、是非一緒に狩りをさせて貰いたい。問題は一つ、僕の男としてのプライドくらいかな」
「うふふ。そう言えるのでしたら問題はないのではないでしょうか。狭量な方が指揮官であれば不安で不安で仕方ありませんが、寛容な方であれば意見を出して、より安全にことを進めることもできましょう。実るほど頭を垂れる稲穂かな、という言葉もありますからね」
前世でいたのよねぇ。
プロジェクトの事で意見をすると女のくせに、とか言ってくる人。
「クレアもそれでいい?」
「はいっ、お姉様の提案なら喜んで」
「君たち二人とも僕の思ってたイメージと随分違うね。ともかく、せっかく提案してもらったんだ。詳細を確認したいんだけどいいかな?」
その後は狩りに行く場所と魔物、日時や人数、どうやって狩るのかなどを話し合った。
場所と魔物はお互いに安全のために連れていく人員によって決めることにして、日程だけは再来週の学院の休みの日とした。
話をしていてわかったことは、スイフト様は知識を詰め込んだ上で計画を綿密に立てていくタイプだということ。
前世でもこういうプロジェクトマネージャーいたなぁ。
まぁ、プロジェクトを管理する人はだいたいそうなのかもしれないけど。
で、当時のマネージャーは順調な時はメンバーへの配慮も管理も抜群だったけど、不測の事態にすごく弱かったんだよね。
実はスイフト様にも同じ匂いを感じていた。
実際に討伐に行く前に今日お話しができたことは本当にラッキーだったかもしれない。
いきなり実践だと何が起こるかわからないから。
「ロックホーンが相手だった場合は部隊の配置を――
数が多い時は――」
いつの間にか部隊運用を前提とした魔物討伐の話になっていた。
私、戦術は全然わかんないんだけど……。
そういえばゲームのスイフトはステータスこそザ平均って感じだったけど、特性で『指揮』を持ってたっけなぁ。
パートナーで選択すると部隊全体のステータスが上がる能力だった。
スイフトをパートナーにしないとクリアできないマップもあった。
攻略対象一択で進めることもできないなんて、本当に乙女ゲーとは思えない難易度だ。
話しは戻って、スイフト様との認識のすり合わせだ。
実際に私がベルガモット領で狩った魔物やゲームの知識を思い出して、魔物の特徴や必要と思われる人材などを思いつくまましゃべってみる。
すると、そうかだの、でもだの言って彼の中でどんどんとイメージが固まっていく。
ゲームや学院の部隊単位だとしょせんは六人だからそれほど大きな変化はないかもしれない。
けれど彼の中では複数の部隊を指揮することまで考えているように思えた。
規模が大きくなればなるほど個の力でできることは小さくなって、全体を見る者の力が大きくなる。
これは前世のプロジェクトもこの世界での戦いも変わらないのかもしれない。
話に熱中している最中に扉がノックされる。
スイフト様が応対して、扉を閉じた。
「ごめん、少し熱中しすぎてしまった。大分時間が立ってしまったようだから、学院まで送るよ」
「え? もうそんな時間ですか? お姉様がいろんなことを話しているから楽しくてまだまだ聞いていたかったんですけど……。それにお姉様、パンケーキ以外も食べなくていいんですか?」
「だ、だだだ、大丈夫よっ! えっと、スイフト様のお言葉に甘えてもよろしいでしょうか」
「もちろん、こちらから言い出したことだからね。それ以外にも僕で力になれることがあれば頼ってよ」
おぉ、随分と対応が柔らかくなったものだなぁ。
ちょっとキツいこと言ったかと心配したけど、どうやら無事、私もちゃんと彼の視界の中に納まるようになったみたいだ。
そして、馬車での帰り道でのこと。
「今日の店は父が管理しているんだけど、僕が立ち上げに関わったお店が最近オープンしたんだ。そっちは平民も入れるようなお店だから、今度是非遊びにきてよ。僕からの紹介状を渡しておく。これを見せれば十パーセントオフになる。それに僕のりえ……ごほん。ともかく一度見に行ってみてよ」
利益、と言おうとしたな、この人。
まぁ商人だし、それくらいは考えるのは当然なのかも。
「へぇ~。どんなお店なんですか?」
「貴族の学生や街の富裕層よりがターゲットなんだけど、この店よりは安めにして、シンプルかつ清潔さに気を使ったお店でね――」
スイフト様は好きなことになると周りが見えずに止まらなくなるタイプだった。
でもさ、一生懸命な男の人ってちょっとかっこいいし、夢中になっている顔はちょっとカッコ可愛いかも。
少し、見惚れてしまった。
さすが攻略対象、恐るべし。
スイフト様はご自宅からの通いなので、学院の前でお別れだ。
また明日と互いに言い合って寮へと戻る。
「あの二人は僕のお店に来てくれるかな……。男爵家だとそこまで売上は期待できないかもしれないけど、あの二人から広めて貰えれば……。うひうひひ。いや、違う違う。僕が広めるんだ。そして売上を夜な夜な数えて……うひひ。
それにしてもフローレンシア嬢か……。あれで、太ってさえいなかったならなぁ……」
風の魔法で最後の言葉、聞こえてっかんなっ!!
というか前言撤回。
お金のことになるとちょっとヤバイ人かもしれない……。
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