第047話 交渉?


 カエデちゃんと飲んだ日は9時前には別れ、家に帰った。

 そして翌日、俺は昼前に起きると、朝食のおにぎりを食べ、出かける準備を開始する。


 今日はギルド本部で回復ポーションの交渉のため、当然、エレノアさんで行く。

 俺は服を脱ぎ、TSポーションを飲むと、黒ローブを着込み、カラコンを付けた。

 そして、カバンに100個のレベル2回復ポーションがあることを確認すると、家を出る。


 いつものように適当なところで透明化を解くと、タクシーに乗り、ギルド本部を目指した。


 タクシーに乗り、しばらくすると、タクシーがとあるビルの前で止まった。

 ビルの入口の横にはギルド本部と書かれた石看板があるため、ここがギルド本部なのだろう。


 俺は運転手に料金を払い、タクシーから降りると、ビルの中に入る。

 ビルの中は他の支部とは違い、受付が1つしかなかった。

 というか、普通の会社みたいだ。


 俺は1つしかいない受付に向かうと、勝手がよくわからないので受付嬢に声をかけることにした。


「こんにちは。本部長に会うように言われているんだけど」

「いらっしゃいませ。恐れ入りますが、お名前をおねがいします」


 自分で言うのもなんだが、この受付嬢だって有名なエレノアさんを知っているのだろうが、一応の確認だろう。


「エレノア・オーシャンよ」

「はい。少々、お待ちください」


 受付嬢はパソコンをカタカタと動かし、確認をしだした。


「君、こっちだよ」


 俺がパソコンを操作している受付嬢を見ていると、左から声が聞こえてくる。

 声がしてきた方を見ると、そこには40代くらいのメガネをかけたおっさんが俺を見ていた。


「どちら様?」


 俺はこの人を見たことがなかったので聞いてみる。


「君が回復ポーションを売りに来たエレノア・オーシャンだろう? 私が担当することになっている」


 そうなの?


「この人が本部長さん?」


 俺は受付嬢に聞く。


「い、いえ」


 違うようだ。


「私は本部長さんに会うように言われているんだけど?」

「そんなのは関係ない。こっちはもっと上からの指示でここにいるんだ。私も暇ではないので早くしてほしい」


 いや、知るか。

 あと、俺、客だぞ。

 なんでそんなに偉そうなんだよ。


「まあ、何でもいいですけど」


 俺的にはポーションが売れれば何でもいい。

 ギルドのごたごたはどうでもいいのだ。


「こっちだ」


 おっさんはそれだけ言って、近くの部屋に入っていった。


「そういうわけらしいから行ってくるわ。本部長はキャンセルね。あ、私のせいではないわよ」


 俺は受付嬢にそう告げると、状況がわかってないっぽい受付嬢を放っておいて部屋に向かう。

 そのまま部屋に入ると、部屋の中にさっきのメガネのおっさんと初老のじいさんが並んでソファーに座っていた。


 いや、誰?

 この人が本部長……なわけないな。


「座りたまえ」


 さっきのおっさんにそう言われたため、俺は2人の対面のソファーに腰かけた。


「早速だが、回復ポーションを出せ」


 俺が腰かけると、すぐにじいさんの方が手を出してくる。


「いきなりねー」


 挨拶もなしかい。

 というか、お前らは誰だよ。


「いいから出せ」

「なんで?」

「偽物かもしれん」


 失礼な。


「あなた達は鑑定持ち?」

「なくても飲んでみればわかる」


 は?

 飲む?


「いくら出すの?」

「いくら? そんなもんは後だ」


 バカ?


「値段交渉もなしにお渡しできません。というか、あなた達は誰よ? 本部の人?」

「き、君、進藤先生に失礼だろ!」


 メガネのおっさんが慌てて怒鳴ってきた。


「いや、誰よ。私がギルドの人なんか知るわけないじゃない」


 バカか?


「私は衆議院議員の進藤だ」


 あ、バカは俺だった。

 先生って言われたし、国会議員だわ。

 でも、知らね。


「そう……それはごめんなさい。私が無知でした。でも、その進藤先生が何故ここに? 私は回復ポーションをギルド本部に売りに来たんですけど」

「ギルドに売るのはなしだ。私が懇意にしている会社に売れ」


 えー…………

 もう怪しい雰囲気しか感じないんだけど。

 絶対に真っ黒でしょ。


「私としては売れるのならば、どこでも構いませんね。おいくらで?」

「100万だ」


 メガネのおっさんが自信満々に金額を言った。


「レベル1の回復ポーションですか?」


 まさか、ね。


「君はレベル2の回復ポーションを売りに来たんだろう? もちろん、それだ」


 マジで言ってる?


「レベル2の回復ポーションの相場は300万円と聞いていますが? かなり安くなっていますね」

「君みたいな怪しい魔女から買うんだから仕方がないだろう。信用もないし、当然だ」


 めっちゃ失礼なおっさんだな、おい!


「申し訳ございませんが、100万円ではお売りできません。さすがに相場を下回られると困ります」


 少しくらいなら下回ってもいいけど、さすがに100万はない。

 それだったらレベル1の方を50万でサツキさんに売るわ。


「どうせ無尽蔵に持っているんだろう。いいから早く出せ」


 このおっさん、ちょームカつくんですけどー。


「野中君、落ち着きなさい」


 進藤先生が野中という名前らしいメガネのおっさんを制した。


「しかし…………」

「いいから、いいから。エレノア君、君はこの国の人間ではないね? 不法滞在だ。だが、私が警察やらギルドなんかに手を回しているから特に問題が起きていない。つまり、私の指先1つで君をどうにでもできるわけだ」


 あっそ。


「そうですか。それはありがとうございます。でも、お売りできませんね」

「何故だね? 君はポーションを作れるのだろう? もしくは、フロンティア人から仕入れることができるのだろう? 100万でも十分に収益が出る」

「おっしゃっている意味がまったくわかりません。私はスライムからドロップしただけです」


 錬金術でポーションを作るなんてありえないでしょ。

 何を言っているんだか。


「そうかね。言っておくが、君はギルドにレベル2に回復ポーションを売ることはできんぞ。私が止める」


 この人って国会議員の中でもお偉いさんなのかな?

 でも、俺は知らんぞ。


「さようですか。ならば仕方がありません。元より、そこまで在庫があるわけではないですし、諦めます」


 レベル2の回復ポーションはいいや。

 レベル1の回復ポーションとアイテム袋で儲けよう。


「在庫がない? いくつあるのかね?」

「5個ですかねー」


 嘘!

 今日は100個しか持ってきてないけど、ホントは500個ある!

 作るのって、楽しいんだよ。


「50個ほど用意しなさい。それなら150万で買おう」


 バーカ!


「いえ、そんな数は到底、無理です。どうやら話にならないようなので失礼します」


 俺は時間の無駄だと思い、立ち上がった。


「いいのかね? 君を拘束することになるが……」


 つまらない脅しだわ。


「拘束? 私を? あなたが? へー……」


 俺は笑いながら進藤先生を見る。


「本気だぞ?」

「ふふっ。やってみなさい。皆殺しにしてあげるわ」


 魔女だぞー。

 食べちゃうぞー。


「我が国を敵に回す気か?」

「あなたのせいでね。そうねー……私の魔法でこの国のゲートを閉じて差し上げましょうか?」


 当たり前だが、そんなことはできない。

 エレノアさんはナナポンが使える火魔法すら使えない。


「……………………貴様、フロンティア人か」

「いいえ。違います。ただの魔女です」

「……………………」

「クスクス。私はどちらでもいいわ。では、ごきげんよう」


 俺はさっさと部屋を出た。

 そして、さっきの受付嬢のもとに行く。


「あ……」


 受付嬢は近づいてきた俺に気付き、声をあげた。


「どうも。さっきの人に売っちゃダメって言われたからレベル2の回復ポーションは売らないことにしたわ。本部長さんにそう伝えてくれる?」


 しゃーない。

 買い叩かれてまで売る気はない。

 というか、ムカつくし。


「え? え?」

「返事は?」

「あ、はい。わかりました」

「結構。では、さようなら」


 俺はさっさとビルを出ると、タクシーを探す。

 すると、タイミングよく、タクシーがビルの前に止まった。


 俺は迷わず、タクシーに乗り込む。


「最近のタクシーはいいわね。呼んでないのに来る。しかも、隣に女の子までつけるなんてね」


 女の子って歳じゃないけど。


「ウチはサービスが良いんだ? で? どこまで?」

「ちゃんと地理を覚えてきたんでしょうね? ハリー」

「もちろんだぜ」


 そのタクシーにはどっかの国のAランク冒険者が2人も乗っていた。

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