第023話 お泊まりという名の撃沈 ★


 俺達は総菜をつまみ、酒を飲みながらオークションを見ている。


「上がるなー」

「まさかの5キロのやつまで100万を超えましたよ」

「マジ?」


 推定50万が100万に!?


「マジです。最終日になると、すごいですね。しかも、これからラストスパートなんでもっと上がるかもです」

「すげー。まさしく錬金術。元は輪ゴムとカバンなのに」

「コスパ、やべーです」


 ホント、ホント。

 俺の錬金術で一番ヤバいのはそれだ。

 ほぼコストがかからない。


 透明化ポーションに至っては水と純水なので蛇口をひねるだけで材料が揃う。


「こりゃ、今後、金には困らんな。引っ越し、どうしよう?」

「いや、してくださいよ。私、もっと良い部屋が良いです」


 俺もそう思う。


 何千万円も手に入れようとしている人間がぼろアパートでスーパーの総菜をつまみに缶ビールを飲んでいるんだぜ?

 まあ、隣には最高のキャバ嬢がいるけどね。

 わはは、もっと近こう寄らんか!


「どの部屋に住むかで悩んでんだよ。広すぎても管理できん」

「先輩、掃除しなさそうですもんねー。ルームシェアします? 私は一銭も出しませんけど、掃除するのとご飯とお酒を買いにいくのは得意です」


 それ、寄生では?

 あと、俺もご飯と酒を買いにいくのは得意だわ。

 カップラーメンにお湯を入れるのも得意。


「同棲かー」

「ルームシェアです」


 一緒や。


「お前、それでいいん?」


 女子と男子が一緒に住む。

 何も起きないはずもなく……


「一銭も出しませんし、良い所に住みたいです。それに先輩と飲みたいです」


 さすがだぜ!

 まあ、出してもらう気もない。

 俺には金があるのだよ!


「マジでそうするかなー。ハウスキーパーも考えたんだけど、信用できんだろ?」

「あー、この前、芸能人のやつでニュースになってましたね」


 芸能人の部屋の写真を撮ってネットにあげたヤツがいたのだ。

 結構、話題になった。


「あれをされると非常にマズい」

「ですね。何で特定されるかわかんないですし……そうなると、セキュリティーを重視した方がいいですね」


 確かに。


「うーん、あ、50キロのやつも1000万を超えた」

「あ、ホントです。こりゃ、明日のニュースがすごそうです」

「池袋支部に人が殺到しそう」

「嫌なことを言わないでくださいよ。先輩というか、エレノアさんにも群がって来ますよ」


 嫌なことを言う……


「のもー、のもー」

「先輩、おかわり!」


 はいはい……


 俺達はその後も飲みながらオークションを見ていった。


~22時~

「あははー! 先輩、見てくださいよ! 2500万です! バカじゃねーの! 輪ゴム100個に2500万円も出してます」

「ちょーウケる! こいつら、アホの集まりだろ。そんなに輪ゴムがほしいかー!」

「「あははー!」」


 ばーか、ばーか。



~23時~

「バ、バカばっかりですね! さ、3000万ですって!」

「わ、輪ゴム大好き人間かってんだ」

「「あ、あははー!」」


 ホンマ、アホやね……



~24時~

「せせせ、せんぱぱい…………私、酔ったみたいです。ご、ご、5000万に見えます」

「飲みすぎだよ、カエデちゃん。500万だってー」

「「……………………」」


 あわわ……



~25時~

 俺とカエデちゃんはずっとスマホ画面を見て固まっていた。


「先輩……私、今日は家に帰りたくない気分です…………もっと言えば、明日、仕事に行きたくない気分です」

「明日は風邪引いて休みなよ。というか、帰らないで。俺は合計1億8000万円越えが頭に入ってこない」


 カエデちゃんがウチに泊まっていくことが決定した。

 なのに、一向にエッチな気分にならないのは何故だろうね?


「どうしましょう?」


 カエデちゃんが聞いてくる。


「開き直るしかない。俺達は超勝ち組だ」

「この1億8000万円で田舎で慎ましやかに暮らせば、一生働かなくてもいいですよ。逃げます?」

「逃げれる?」

「多分、無理かと…………少なくとも、ウチのギルマスが逃がしてくれません」


 だよね……

 今回の取引のサツキさんの取り分は5パーセントだから750万円だ。

 絶対に逃してくれない。


「まだ1000キロというヤバいのが残ってるね」

「ですね。この感じでいくと、最低でも5億になっちゃいます」


 た、宝くじだ。

 しかも、それが2個もある。

 もっと言えば、いくらでも作れる。


「慎ましやかに生きるのはなしだ。2人で豪遊する人生を歩もうぜ」


 1億8000万円?

 その10倍も100倍も1000倍も稼いでやるぜ!


「せ、先輩……! 一生ついていきやすぜ」


 かわいい後輩は手をもみもみしながら媚びてくる。


「かわいい奴め! よし! 飲もう!」

「飲もー」

「「かんぱーい! あははー!」」


 俺達は深夜3時まで飲み、そのまま沈んだ。




 ◆◇◆




「チッ! やっぱり金の卵だったか!」


 俺は思わず、舌打ちをする。

 それほどまでにこのオークション結果が妬ましかったのだ。


「ギルマス、これはちょっとマズいです。冒険者の流出が起きます」


 子飼いのAランク冒険者が忠告してきた。


「わかってる。明日、本部長に掛け合って、制限をかけてもらう。池袋に殺到しても混乱を招くだけだし、本部長も断らんだろ」


 あそこにそれほどまでの人数をさばける能力はない。


「高ランカーはどうします?」

「勧誘か?」

「はい。正直に言えば、俺も勧誘したいです」


 このオークション結果を見ればそう思うだろう。


 一晩で2億近い金を稼いだ黄金の魔女だ。

 欲しいに決まっている。


 ましてや、アイテム袋という高ランカーには必須なアイテムをこれだけ売ったのだ。

 他にもあるに決まっている。

 高ランカーが動くのは目に見えている。


「ギルドや表ではやめろ。問題を起こしても庇えん。やるならフロンティアだ」

「わかりました。皆に通達します」

「ただ、限度をわきまえろよ。黄金の魔女は剣術に長けているらしいし、当然、魔法もあるだろう。あのバカの話ではお人好しっぽいが、得体のしれない存在であることを忘れるな。それに本部や政府も動き出す。下手なことをすれば、どうなるかはわからんぞ」

「承知しています。まさしく金を産む存在ですからね。黄金の魔女とはよく言ったものです」


 こいつらには言ってないが、あの魔女は回復ポーションを一度に50個も納品している。

 ヤバさが桁違いだ。


「他の支部も動くだろう。牽制しろ。最悪、こっちに来れなくても他所の支部に取られなければいい。いくら黄金の魔女でも池袋ではこの渋谷支部には勝てん」


 まあ、逆を言えば、他所もウチにだけは取られたくないだろうがな。


「わかりました。クーナー遺跡でしたよね? うーん、あそこは人が多いからなー」


 こいつがあんな所に行くと、人を集めるだろうな。

 雑誌やテレビに引っ張りだこなスーパースターなAランク様は違うね。

 俺は嫌い。


「部下にでも行かせろよ」

「部下じゃなくて仲間ですよ」


 こういうところも嫌いだわ。


「仲間に行かせろ」

「でも、俺が会いたいんですよ」


 ケッ!

 ファンを食いまくってるっていう噂は本当っぽいな。


「勝手にしろ。くれぐれも破滅して俺を巻き込むなよ。破滅するなら1人でしろ」

「なーに言ってんですか? 一蓮托生でしょ」

「だったら自重しろ」

「わかってます」


 わかってねーな、こりゃ。


「ヨシノも動いてる。隠しているが、あれは本部長の子飼いだ」

「ヨシノさん? それはすごいですね」


 三枝ヨシノはAランクの中でもトップクラスだ。

 

「ヨシノだけじゃない。他も動く。魔女に鼻の下を伸ばすのはいいが、気をつけろ」

「ヨシノさんかー……」


 聞けよ……

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