第30話~テレパシー対決~

「能力対決って事は………テレパシー対決とかするの?」


 暖は目の前のご馳走を口に運びながら、大和に問いかけた。メンバーはにこやかに、今から始まるゲームに期待を膨らませた。

 けつ

「あぁ、質問をみんなから受けて、俺がその答えを念じる。みんなはその念をキャッチして正解予想を答える。まぁ、お遊び気分でやってみない?」


「面白そう!やろうやろう!」


 真琴がはしゃぎながら、食事の手を止めると前傾姿勢になった。


「まぁ余興だから気楽に楽しもうよ」


 そして大和は席に深く座り直すと、深く深呼吸をし目を閉じた。


 それを見た遥は、「じゃあ質問募集します!誰かありませんか?」と、シャンパンを口にしながらメンバーを見回した。


「はい!!僕がしてもいいですか?……まずは簡単なのから、好きな食べ物は何ですか?」


 李留が少し緊張しながらも楽しそうに質問をした。


 それを見た大和は目を閉じながら微笑むと、その答えを念じはじめたようだった。


「その質問は、元々同僚だったベイと私は知ってるし、辞退するわ。ねぇベイ?」


【サイエンス】時代の同僚だった、ベイと遥と大和は、ある程度のお互いの好みなどは熟知しているようだった。

 遥に問いかけられたベイは、「ヒント言うと、俺が好きな牛丼ではないよ」と言うと、また一心不乱に食事を頬張りはじめた。


「うーん……難しいなぁ。」


 李留は念をキャッチしようと、大和の傍へ行ってみたり、集中してみたり、自ら色々動き回り始めた。


 それを見た、ベイと遥以外のメンバーも立ち上がると大和に近づき、周りを囲みはじめた。


「そろそろわかった人いる?手をあげてみて?」


 大和が念じる姿勢は崩さないまま、皆に問いかけると、暖と沙羅が、ゆっくりと手をあげた。


「え!?わかるんですか??僕は駄目みたいですね。大和のどんどんあがっていく能力の数字に意識が向いてしまって、受けとるのは無理みたいだ……」


 ワッカはお手上げだというポーズをすると、自分の席にゆっくりと腰かけた。


「ワッカさんが駄目なら、僕なんてもっと無理じゃないですか!ぼんやり輪郭はみえてきたんだけどなぁ……」


 李留はくやしがりながら、更に大和の周囲をぐるぐるとまわりはじめた。


「真琴さんは、わかりましたか?」


 大和の周りをまわりながら、李留はずっと手もあげずに黙っている真琴が気になりはじめた。


 真琴は大和をただ黙って見つめていた。

 少し顔色が青ざめてるようにも見える。


「えぇ………わかったわ………」


 口を開いた真琴に、少しほっとした李留は「じゃあ僕はギブアップで!大和さん正解をお願いします!」


 と、大和に答えを求めた。


 大和はゆっくり目を開けて、「暖と沙羅と真琴はそれで正解だよ」と言いながら立ち上がると、「代表して暖が発表してみて?」と暖に答えの発表を振った。


 皆は寛ぎながら、その中でも答えがわからなかった李留とワッカは期待感でいっぱいのようだった。


「答えはりんご?沙羅はどうだった?」


「えぇ私もそう感じたわ……真琴も?」


 真琴は最初のはしゃぎっぷりとは正反対な様子で黙って頷いた。


 大和はその光景に、「正解。昔から大好きなんだよね」と微笑むと、食卓のアップルパイを手に取った。


 沙羅は、オールマイティーな暖が受信出来るのはわかるけれど、ヒーリング能力しか取り柄のない自分が同じ情報をキャッチ出来たのが不思議でならなかった。


「あぁ林檎だったんですね!ぼんやり赤い色まではわかったんですけど、僕はまだまだだなぁ」


 李留は自分の受信と答えとの答え合わせに一喜一憂しつつ、そう感想をもらした。


「機関に入れた時点である程度のテレパシー能力はあるはずよ?勿論、強弱はあるはずだけど。今ので少し確認出来たし、これからの任務に応用出来るかもしれない。参考にするわ」


 遥はリーダー目線で、余興の結果をメモに取ったあと次の質問募集をはじめた。


「次の質問は、私やベイも知らない事が聞いてみたいわ。何かないかしら?」


 暖が、何かを思い付いた様に真剣な顔で右手をあげた。


「大和の好きな人が誰か聞きたい」


 唐突な質問に、食事を喉に詰まらせたらしいベイがむせはじめた。


「ゴホッゴホッ……暖って案外凄い質問するんだな。さすがにそれは俺も遥も知らない未知の領域だけどさ」


 目を白黒させてむせ続けるベイの背中を遥がさすりながら、同感だと頷いた。


「いや、先日いるって聞いたんだ。それから聞いてみたくて、少しデリカシーがなかったかな、じゃあ別の質問に……」


「構わないよ……じゃあはじめようか」


 大和は特に狼狽える事もなく、また椅子に深く座ると目を閉じて念じ始めた。


 さっきまでの楽しい空気は残しながら、言葉に出来ない少しピリッとする緊張感が空間を包み込むと、皆が集中をはじめた。


「そんな………」


 沙羅が、呆然と呟いた。


 さっきは受信を諦めたワッカも、何かを受け取ったらしく頭を抱えこみ、真琴に到っては無言で涙を流し始めた。全員が答えを受け取ったらしく、場に目には見えない重力がかかったのをそれぞれが感じた。


 大和はその空気は予想していたという感じで、でもそれをメンバーに伝えられた事で、晴れやかな顔になりながら、ゆっくりと正解を口にした。


「そう、俺には好きな人がいる。いや、いただな。

 俺の好きな人は、もうこの世にはいない」





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