第13話~父親との再会~


 機関から街に向かうモノレールの車内は、沙羅と真琴、暖と李留の4人だけだった。


 皆のそれぞれの想いを乗せて、モノレールは車体を揺らし前進していた。


「とりあえず、おじさんに直接退院祝いを渡せる事になったのは良かったね」


 暖は、大事そうに沙羅の膝の上に置かれた、先日購入したプレゼントの紙袋を見つめながらそう話しかけた。


「そうね、直接渡す事は諦めていたし良かったかも」


 沙羅は3日後に旅立たなければならない、不安な気持ちを表情に隠し切れないまま、寂しげな笑顔を向けた。


「そろそろ着きますね、とりあえず真琴さんどうしますか?先に僕はオーナーに挨拶に行ってこようと思うんですけど」


 李留は真琴に尋ねた。


「私は先にパパに会いに行く。李留君、鞍馬に後で行くって伝えていてくれない?」


「わかりました。じゃあ、ここからは別行動で。また3日後に機関で会いましょう。」


 そう言ってる間に、モノレールは街の駅へと滑り込むとゆっくり車体を停止させた。


 4人は降り立ち、李留は3人に挨拶をすると、知ったる街の中へと溶け込んでいった。





 ◇




 久しぶりの我が家の前に立ち、双子姉妹は安堵感と懐かしさで気づけば穏やかに微笑んでいた。


「やっと本当に笑った」


 暖はそう言って自分も穏やかに微笑むと、玄関の呼び鈴を押した。


「パパ!」


 開かれたドアの向こう側には、車椅子であれ、元気に回復した父親の姿があった。


 真琴は父親に抱きつくと、子供の様に泣きはじめた。


「真琴は機関でも、まさかこんなに泣き虫じゃないだろうね」


 父親はそう言いながら真琴を抱きしめ、頭を撫でた。


「パパこれ、私達から退院のお祝い」


 沙羅は、両手で握りしめたプレゼントの紙袋を差し出した。


 父親はそれを嬉しそうに受けとると、リボンをほどき開封しはじめ、落ち着いた茶色の箱を開けるとそこには、双子座をあしらったモチーフがついたネックレスが光を放っていた。


「これはお前たちだね。有り難う、大切にするよ」


 父親は涙ぐみながらそう言うと、両手で首につけた。


「感動のシーンも拝見させてもらったし、おじさんにも会えたし、俺はそろそろ自宅に戻るよ」


 暖はそう言って、車椅子の父親の目の前に来てしゃがみこむと、小声でこう言った。


「おじさん、僕が沙羅を守りますから。勿論、真琴も。だから安心してくださいね」


 父親は何度も頷きながら、暖の両手を自分の両手で握りしめた。


「何の話してるの?」


 そう尋ねてきた沙羅に、何でもないと告げると

 暖はまた3日後に迎えに来ると言って、自分の家に帰っていった。





 ◇



 父親との家族水入らずな食事を楽しんでいたその日の夜。

 その席で、月への任務に旅立つ事になったと沙羅が父親に告げると、父親は狼狽し言葉を失った。

 その姿を見て、直ぐ様沙羅が笑顔でこう言った。


「大丈夫よパパ。能力者仲間に私達の能力を数値で見通せるワッカって人がいるんだけど、私達の値ね、結構悪くないみたいなの。きっとパパの血を受け継いだのね。」


「沙羅……」


「それに星間戦争が悪化したら、何処にいても危ないのは同じよ。それなら私は防ぐ道を模索したい。パパが平和に暮らせる様に絶対に私達が守るから」


 沙羅の言葉を横で聞いていた真琴も、自分も同じ気持ちだと頷くと、父親を見つめた。


「本当に強くなった。私は自慢の娘をもった。私はお前たちの無事だけをここで祈っているよ。」


 父親はそう言うと、双子姉妹を両手で抱きしめた。

 二人はもう暫くは甘える事の出来ない、父親の温かな懐の中で、一時の安らぎを感じた。


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