靑語り
靑の保管庫と呼ばれる部屋がある。所長があらゆる場所から採取したり買い付けた靑が保管されている4階にある部屋だ。この建物は外観と中身の構造が一致しないと知ったのはつい最近の事で、この靑の保管庫は本来外側からは見えない部分になる。二つの部屋の間の壁を取り払った、とても広い場所だ。
壁一面に造り付けられた棚の上に大小さまざまな硝子壜が並び、中身は全て靑で満たされている。純粋な靑だけかと思えば紫や碧の混じったものもあり、靑というだけでこれだけの種類があるのかと感心させられる。何から採取したのかと聞いたら「宙の果てと森の奥の水面」と答えられ一体どうやって採取したのか少し悩んだのは大分前の事だ。
研究所を訪れた時ラピスラズリを件の場所から籠いっぱいに持ってきたと聞いた所から、珈琲と焼き菓子を挟んで靑の採取法の話になった。
「夜の靑は比較的何処でも採取出来る。宙は少し面倒だ。何せ宙の果ての停車場まで汽車に乗らなきゃならないからな」
「……宙の果て?そんな停車場知らないぞ」
「当たり前だ。地上ではなく宙を走る汽車の停車場だ」
宙を走る汽車。
宙の果ての停車場。
わからない単語があれこれ出て来て呆気にとられる。所長はまだ「星屑の川の靑もいい」やら「流星の通り道には近づかない方がいい。星の揺り籠が見せる夢に囚われて暫く足止めされる。」とよくわからない事を語っている。私はもう諦めて珈琲と焼き菓子を食べつつただただ相槌を打つ事に専念した。
10分程語った所長は満足したらしい。置いてけぼりの私をそのままに、新たに仕入れたという靑い蛍石の選別をしに応接室を出て行ってしまった。……宙の果ての停車場とは一体どんなところなんだろうか。
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