靑色結晶標本
「すまない、商品の用意に時間がかかって菓子を作る時間が無かった」
「だと思って駅前でケーキを買ってきた」
二つほど余計に入ったケーキの箱を所長へ渡す。微かに申し訳なさそうに眉を下げた所長はコーヒーを淹れてくると言って箱を持ったまま部屋を出て行った。ソファーの定位置に腰を下ろしたものの、窓際で光ったものが気になってすぐに腰を浮かせることになる。
窓際の作業机に並んでいたのは小さな結晶を封入した標本だった。
様々な靑を閉じ込めた結晶は白い光を染めて机の上に靑い影を落とす。一つ摘み上げて光に透かすと、小さな結晶の中に更に小さく細かな煌めきが閉じ込められていてつい見とれてしまった。その間に戻ってきた所長はコーヒーとケーキの乗った皿をテーブルに置きながら私へ声をかける。
「次の商品だ」
「綺麗だな。この結晶は?」
「私が所有する靑を結晶化させたものだ。一度液体水晶と混ぜる所為で結晶一つ一つの色合いが変わってしまってな。同じ色が中々作れない」
所長はそれが課題だと言いながら苦笑して私の横に並び、結晶標本の一つを手にする。深い靑色の中で金色の星が煌めいていた。
「小さな宙や海を掌の中で楽しむのも乙なものだろう?」
「それはいいな」
後で一つ買わせてくれと頼むと彼にしては珍しくとても柔らかい表情で笑って頷いていた。
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