第28幕 寄り添う心

無事、事故にもならず怪我もなく、カリーナの目的地である"シンクローズ"に到着した。

「いや~、楽しいドライブだったね~」

カリーナは運転席に座り背伸びをする。

「…死ぬかと思った…」

「私も…」

「…良かったじゃないか…、無事に着いて…」

他の3名は、無事生き延びていることが奇跡のようだと安堵のため息をつく…。

カリーナはシンクローズの中心街のバスターミナルに駐車してくれた。

案内図の看板にはシンクローズ周辺の路線が書いてある。

バスで一般道路を走っていれば、3時間はかかるルートをショートカットして1時間半で到着したようだ…。

"ピルルルルルル"と着信音が鳴る。

「ぁ、電話だ…」

カリーナは座席の下のカバンを漁る。

シャンパンピンクカラーのガラケー(ガラパゴスケータイ)を取り出した。

顔と同じくらいの大きさのストラップ…というか、クマのぬいぐるみが付けられていた…。

「ぁ、もしもし、ダーリン?…あ、うん。今着いたとこ。…えへへ~、早いでしょ!」

電話の相手は旦那さんのようだ。

「うん…、もう少ししたら着けるかも。

え?…ぁ、お花屋さんね、はーぃ…はーい、わかったー、待っててね~、じゃね~バイバーイ」

カリーナは電話を切った。

「…ってなわけで、ダーリンから電話かかってきちゃったから、今から行かないと…」

「そうだね」

アリシア、ウィルソン、ダグラスはシートベルトを外し、車を降りた。

「ありがとうカリーナ。すごい助かったよ」

「いいってことよぉ。困った時はお互い様なのよ。ウィルソンもあんまりアリシアちゃん泣かすなよ~。いや、逆か?」

「大丈夫!ウィルが元気ない時は私が"いい子いい子"するね!」

「こいつ泣き虫で弱っちぃけど。よろしく頼むね、アリシアちゃん!」

「うん!」

パチン、とアリシアとカリーナはハイタッチをした。

「お父さまもお身体に気をつけて」

「ありがとうお嬢さん」

カリーナは車のエンジンをかける。

「じゃあな、ウィルソン。がんばれよ!お父さまのために…。応援してるぞ!」

「カリーナも…がんばれよ」

ウィルソンとカリーナはグータッチを交わす。

カリーナは車を走らせた。

「バイバ~イ。カリーナさーん」

アリシアは大きく手を振った。


時刻は9時36分。商業施設と一体になったバスターミナルにはリザベート行きの他にも、キルト行き、サンクパレス行きもあった。

リザベート行きのバス停の前にはすでにバスが到着し、出発を待っている。

9時42分発-11時21分着のバスに乗ることにした。

料金所の電光掲示板には"大人820G子人410G"とある。

アリシアが料金所にお金を払う。

「ごめんねアリシアちゃん…こんなに出してもらっちゃって…」

「遠慮するなよウィルソンくん。このためにお母さんからお金貰ってきたんだぞっ」

アリシアはペロッと舌を出し、ウィンクした。

…なんかキャラ違くない?

カリーナの話し方を真似して寄せているのかな?

「…これやっぱり私じゃない…」

違ったらしい…。

3人はバスに乗り込んだ。

30名ほど乗ることの出来るシャトルバス。

「もうすぐリザベートに帰れるね」

「そうだね」

座席に座り、シートベルトを締めた。

アリシアが窓側、ウィンソンが隣の通路側、通路を挟んで反対側がダグラスだ。

出発を知らせるアナウンスが車内に流れる。


「…ねぇウィル…」

「…うん?」

「私は…もっとあなたの事を知ってないといけないと思う…」

「ぁ……」

うまく表現出来ないけどこのままじゃダメだ…。

「…私もリズワルドに入ったんだから。これからもずっとウィルの傍に居るって決めたんだから…」

「アリシア…」

ウィルに悲しい顔をさせないために…、私が出来ること…。

「だから私に…全部話して。あなたの悲しみを解ってあげたいから…。だから―」

「ありがとう…アリシア」

僕は何も考えず、アリシアを強く抱きしめていた…。

"小さな女の子だから"と気を遣って話さないようにしていた、僕の方がバカだ…。

こんなに近くで寄り添ってくれているのに…。

寂しい思いをさせてしまっている…。

この子を離したくない。

頼っても良いんだって…。

そう思える人に出会えた。

強く抱きしめたその小さな身体が、とても大きな心で包み込んでくれた気がした。


アリシアはウィルソンの背中に腕をまわす。

ウィルソンの肩に乗せた顔は幸せを噛みしめているような優しい表情をしている。

あぁ…やっぱり…ウィルにぎゅ~ってされるの…、すごく落ち着くなぁ…。やっぱりこの人が私の王子さまだよ…。

あなたと一緒に居たい…。私も強くならないとね。

「ずっと一緒だよ…ウィル…」

「そうだね…ずっとそ―」

ファアーン!とバスのクラクションが鳴り、

ビクッ!っとなった2人は我に返り、顔を真っ赤にして距離を取る…。

(ふふ…、青春しているなぁ2人とも…。私にもあんな初々しい時代があったな…)

隣の席に座るダグラスが2人の様子を見て微笑んでいた。


バスは走りだし、ターミナルを出る。

シエルたちが待つリザベートに向かう。




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