第43話「昇級試験当日の朝」

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……。


…………。


 暖かい柔らかな光が窓越しに唯臣を包み込んでいる。

 今日はついに騎士団昇級試験の日だ。


 少し伸びをして、唯臣は身体をもたげる。

横にはまだすやすやと眠るアルモナが、小さく寝息を立てている。


 起こさないように、そっと窓を開けると朝靄が鼻から喉を通って行く。まだ朝も起きた所だ。

【シンフォニア】と言う異世界の空気を肺いっぱいに吸い込んで、唯臣は深呼吸をする。

 気持ちの良い目覚めだ。



「次の昇級試験で黄階級に昇格してみせますわ!」



 その言葉は、騎士団支部に初めて訪れた時に、オルフィーが最初に宣言したことだ。


 特にそれが叶わなかった時の条件などは付けていない。

しかし、基本的に貴族が入る騎士団にとして参加した唯臣。

 さらに、その10倍にされた能力値であっという間に他の貴族をごぼう抜きして、試験に挑むのだ。


 新聞にも何度も紹介されている。注目度は計り知れない。

もし、ここで試験に落ちようものなら、とてもそのまま騎士団に居るなど出来ないであろう。

 しかも、宣言したのは黄階級。つまりは白からの飛び級である。


 その条件は、たとえ唯臣でも相当のプレッシャーを感じてもいいはずだ。

その重圧をこの清々しい朝がふっと軽くさせてくれている。


 唯臣は、朝食を取るため、広間へ向かう。

広い廊下もひんやりとして心地よい涼しさを与えてくれる。

 爽やかな足取りでたどり着き、広間のドアへ手を掛けた。


 唯臣が気分よく広間へ入ると、そこは地獄の様な光景だった。


 広間は真っ赤に染まっていた。

コックや給仕達が大勢広場の床に倒れている。

本来この時間は、朝食の準備でテキパキと働いているはずなのに。

 どうやら気絶したように眠っている。


 唯臣は何事かと少し眉を吊り上げ、奥へ入って行く。

広間の中心にあるテーブルで動くもの影を見た。


「リーヘンはん……。

 あっ、頭が割れるようやわ……。」

テーブルで仰向けになって目を回しながら言うアルメイヤ。


「おぉおぉお……。

 私もガンガン頭が鳴っとりますぞー……。」

リーヘンはつっぷして呟く。


 ただの飲みすぎからの二日酔いである。

 

 どうやら、2人は昨日のディナーから夜通しワインをあおっていた様だった。

2人で飲むのに飽き、給仕やコックにも飲ませ超大宴会となっていた模様。

高級でるソンギブ家御用達のワインも、広間のじゅうたんに沢山こぼし赤く染まっていたのだ。

 むせ返る様なアルコール臭の広間には寝室で感じた清々しさは1ミリもない。


「あっ……。唯臣やん……。

 どうしたんや……?こんなに朝早くに……。」

視界の端に唯臣を見つけたアルメイヤが、息も絶え絶えに言う。


「おおぉ、息子よ。今日も爽やかではないか……。」

リーヘンも唯臣に気付き手を振った。


 唯臣は会釈した。


 ”ドタドタドタ”


「もう!!

 あなた達!!

 今日は唯臣ちゃんの大切な昇級試験なのに!!」

広間の奥の調理場から走って来たオルフィーが、腰に手を当てて”メッ!”と指を立てる。


「唯臣ちゃんおはよう!!

 ごめんねぇ。

 今日は大事な日なのに。

 パパったら楽しくなって、朝までみんなでお酒飲んでたのよ。」

唯臣に駆け寄り、なでなでしながら言うオルフィー。


「それでねぇ……。

 ジャーン!

 サンドウィッチ作ったの!」

オルフィーは嬉しそうにバスケットを見せる。


 そこには昨日の残りであろう二又角ウサギの肉や、卵焼きを挟んだ美味しそうなサンドイッチが入っていた。


「ここじゃぁアルコール臭くて食べれないでしょう?

 アルモナと馬車の中で食べて。

 私はみんなを看病して、元気になったら、パパとアルメイヤちゃんを連れて応援に行くから。」

アルメイヤは言った。


 バスケットは愛情たっぷりでとてもいい匂いがする。


「スンスン……。」

やっと起きて来たアルモナが唯臣の後ろから良い匂いにつられバスケットを嗅いだ。


 唯臣は会釈をし、大事にオルフィーの作ったサンドイッチを抱えて、広間を出た。


 自室に戻り、唯臣はいつもの地味目な黒い服に着替えて、アルモナと馬車へ向かうのだった。


…………。


……。


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異世界でもギターシリーズ bbbcat @bbbcat

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