第41話「僕の名は君の名は②」

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 騎士団の訓練をそつなくこなし、屋敷に帰って来た夜。

その日もリーヘンとアルメイヤを中心に会話が絶えない楽しい夕食だった。


 食事も当然に豪勢。

特に美味しかったのは、メインディッシュだ。

シェフに料理名を聞いたところ、「二又角ウサギのソテー・ビリビリ苺クリームを添えて、です。」と自信満々な回答を頂いた。


 それは二又角ウサギを一人一匹分豪勢に使う。

胴体と足で切り方が違い、様々な食感が楽しめた。

 足はそのまま骨付き肉となっており、手で握り豪快にかぶりつける。

ブチブチと千切れ、噛むたびに溢れる肉汁が食欲をそそった。

そして、胴体はステーキとして出てきた。

ミディアムレアに焼かれた肉は、滴る肉汁の旨味もさることながら、絶妙な焼き加減により、肉の柔らかさが際立っていた。


 味は、シンプルに塩と胡椒。

しかし、二又角うさぎから溢れる肉汁と複雑に絡まり、絶品な旨味が塩と胡椒により引き出される。


 そして、何より添えられたビリビリ苺のクリームだ。

それは濃厚なビリビリ苺に、最高級の小麦粉の風味とトロリとした粘感を含んだホワイトソースを合わせた物。

ホイップ状にされたそれは、淡いピンク色で、皿に艶やかな彩を添えている。

 

 ナイフを使い、肉に乗せて食べるのが上品か?

いや、武骨に骨を握ったそのままで、ホイップの山に擦り付けるのもいい。


 肉の旨味を最大限に引き出した塩胡椒と真逆の甘い苺ホイップが、肉の旨味を包み込み口に入れると天上の喜びを感じる。


 唯臣もこの美味さには唸らずを得ない。

アルモナも食欲をそそる匂いと、美味しそうに食べる唯臣達の表情を見て、演奏どころではない。

 望めば自分の分のお肉も出てくるのに、唯臣横に張り付き、じっと唯臣を見つめる。

すると、唯臣は、自分の肉を丁寧に切り、アルモナの口に運ぶ。

 アルモナは目を瞑り、噛むごとに溢れ出て来るその旨味と甘みに酔いしれる。

あまりの美味しさに頬を紅潮させているアルモネを見て満足する唯臣。


「なんなんこれ!!

 めちゃ白ワイン合うやん!!

 うま過ぎ!!」


「美味いでしょう!そうでしょう!

 これが、ブオンバプの名産、二又角ウサギと、ビリビリ苺のパワーですぞ!!」


 肉で繋がれた肉薄する二人の関係性を横目に、関西弁の羽虫と、変なおっさんが騒ぐ。


 肉料理は良く赤ワインが合うと言うが、ビリビリ苺の甘みと酸味が、白ワインとの食べ合わせを向上させている。


「あかんわ。これは。

 あたし一生飲んでまうわ。

 リーヘンはん今日はとことんまで飲むで!?」

顔を真っ赤にして、アルメイヤが言う。


「いいでしょう!

 見てください!もちろん良い赤ワインもありますぞい。

 とことんまで付き合いますぞ!」

リーヘンも顔が真っ赤を越えて黒くなっている。


    「「ガハハハ!」」


 唯臣とアルモネは満足し、一足先に自室に戻るのであった。


…………。


……。


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…………。


……。


 自室に戻ると、アルモネは早速ハミングバードを太ももに乗せて爪弾き出す。

先ほど食べた肉の美味しさを表現しているのか、官能的な音色をワイルドなコード進行に乗せ弾きこなす。


 唯臣は、そのアルモナの演奏を一瞬も見落とすことなく、食い入るように見る。


 演奏力を向上させるには、ただ何も考えず、がむしゃらにギターを掻き鳴らせば良いというわけではない。

上手いギタリストの演奏を見て学ぶのも非常に大事なことである。


 この世界では、現状唯臣はギターを直接弾くことは出来ない。

それでも唯臣は自分の出来る事をする。ギターが上手くなる為に。


 しばらくアルモナの演奏を聴いていると、突然アルモナが演奏を止め話し出した。


「……矢倉唯臣……。」


不意に現実世界での名前を呼ばれて、驚く唯臣。


「物置で初めて会った時、聞いた気がする。

 ……あの時私は、闇の中で、何も言えなかった……。」

アルモネは続ける。


「私の名前は、アルモナ。

 私が、今ここで演奏を楽しく出来るのはあなたのおかげ。

 ……あなた?それとも……ご主人様?」

唯臣のあの時の自己紹介を今返すアルモナ。

そして、呼び名が定まっていない事に気付いたようだ。


唯臣は少し顔を赤くし、アルモナと会話することが出来る様になったこと、アルモナの気持ちが少し分かるようになった事に喜びを感じていた。


「僕達に、主従関係はいらないよ。

 アルモナの好きに呼んで。」

唯臣は言う。


「好きに……?

 じゃあ……。

 ……唯臣君?」

首をかしげて言うアルモナ。


「ふふっ。

 それでいいよ!

 これからもよろしくねアルモネ。」

唯臣は微笑んでアルモネの顔を見る。


「うん。

 よろしく。

 ……唯臣君。」

アルモナはそう言うと、またハミングバードを弾き始めた。


 突如始まってしまったシンフォニアでの非日常な異世界楽々ライフ。

そして今では何でもないこの異世界での日常。


 アルモナがいる日常。


 奏でられる旋律に酔いしれて、唯臣とアルモナの二人の夜は流れて行った。


…………。


……。


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