第15話 撮影会……なんで?
「…………ねえ、紗季」
「どうしましたか、紬」
「あのさ、今日って『魔法少女』の紹介に使う写真を撮りに来たんだよね」
「そうですよ」
「普通、そういうのって証明写真的なやつだと思ってたんだけど……ここ、明らかに本格的なスタジオだよね?」
時は流れて週末。
大崎さんから告げられた『魔法少女管理局』の『魔法少女』紹介ページに掲載するための写真を撮影するため、紗季と二人で連絡にあった場所を訪れていた。
だが、そこは妙に凝った内装の、いわゆる撮影スタジオと呼ばれる場所。
てっきり学校の生徒手帳に使われるような顔写真を取って、質問に答えて終わりかと思っていただけに、早くも嫌な予感を感じて頬がぴくぴくと震えている。
「ああ、梼原さん、叶さん。おはようございます」
「……大崎さん、騙しましたね?」
「何のことでしょうか。私は写真を撮ります、としか言っていませんので」
いつもと変わらぬパンツスタイルのスーツを着込んだ大崎さんが俺たちを
表情と口ぶりからしてわかっていてやったことが明白だし、それを隠す気もないらしい。
……まあ、今になってやっぱり帰ります、なんて言い出さないけどさ。
「というか、もしかして紗季も知ってた?」
「……私も通った道です。諦めてください」
どこか遠い目で口にする紗季。
まさか紗季までグルだったなんて……俺は一体誰を信じて生きていけばいいんだ。
「大丈夫ですよ梼原さん。写真を撮って質問に答えてもらうだけです。難しいことなんて何一つありませんよ」
「大崎さんはそうやって純真無垢な『魔法少女』を騙してきたんですね」
「……言いにくいことを平然と言いますね。私だって悪いとは思っているんですよ。ですが、これも必要なことなので。誰かが泥をかぶるしかないんです」
「でも、本当に紬に危険はない。約束する」
二人の真摯な眼差し。
これ以上の嘘偽りはないですよ、と訴えるような視線に、俺は少し考える。
そうして――深くため息をついた。
「……わかりました。その言葉、信じますからね」
「裏切らないように善処いたします」
「私も前向きに検討する」
「二人とも約束して欲しかったんですけど」
「人間に絶対はありませんので。もちろん、なるべく梼原さんの意向に沿えるように動くつもりではありますが。そのための『魔法少女管理局』ですから」
やっぱりほどほどに疑っておこう。
悪気がなかったとしてもね。
そんなわけで俺が通されたのは、建物内にあるスタジオ。
グリーンバックを背景にして白いソファーが置かれている。
それだけなら簡素に見えたけど周りには色んな家具や小物が並んでいて、どんな状況にでも対応できるのだろうと察した。
俺たち三人がスタジオに入るなり、中で撮影用の機材を準備しながら待機していたスタッフさんが、一斉にこっちを見る。
「遅れてすみません。『魔法少女管理局』の大崎です。銀髪の方が今回の被写体となる梼原紬さんです」
「梼原です。今日はよろしくお願いします」
大崎さんの紹介に続いて自分でも名乗り、礼をすれば、スタッフさんもにこやかな笑顔を返してくれた。
その中でもカメラマンと思しき茶髪を緩く巻いた女性が前に出て、
「梼原さんね。今日はよろしく。話では一人って聞いていたけど……そっちの子は?」
「私は付き添いですからお構いなく」
「そう? なら、早速始めちゃいましょうか。梼原さん、変身してもらえる?」
カメラマンの女性に促され、俺は小さな声で変身の起句を唱える。
すると自らの身体を魔力がコーティングするような感覚があって――白い花を思わせる『魔法少女』としての姿に変わっていた。
「……これでいいですか?」
「ばっちりよ。清純派って感じで、とってもいい。それじゃあ、とりあえずそこのソファーに座って。一枚目は普通に撮るから、ポーズとか考えなくていいわ」
カメラマンさんの要望に従って、俺はソファーに腰を下ろした。
ちゃんと足を揃えて座り、深呼吸で緊張を遠ざけながら、正面で準備を進めるカメラマンさん……正確にはカメラへと視線を向ける。
フラッシュの角度を調節するためか左右と後ろでせわしなく機材を動かすスタッフさん。
静かにピントを合わせるカメラマンさん。
その被写体が俺だと言うのだから、なんとも落ち着かない。
元から写真を撮られるのは苦手だった。
写真を撮られると自分自身の浅さを突き付けられるようで、気分が沈んでしまう。
でも、今回の写真はHPに掲載されるのだから、表情くらいは繕っておいた方がいいだろう。
憂鬱な精神を気が向かないまま鼓舞して、自然体を心掛ける。
「うーん……緊張してる? 表情硬いよ?」
「……そうですか」
「えっとね、一回深呼吸しよっか。ゆっくりだよ」
カメラマンさんに言われるがままに深呼吸。
息を吸って、長く吐く。
何度か繰り返してから再びカメラの方を向くと――ぱしゃり、といきなりフラッシュが焚かれた。
思わずびくっと肩を跳ねさせたが、それに気づいたのかカメラマンさんはカメラから顔を横にずらし、申し訳なさそうな表情で、
「びっくりしちゃった?」
「……少しだけですけど」
「ごめんね。でも、さっきの表情は自然だったから。もしかして、写真撮られるの苦手?」
「得意ではありませんね」
「勿体ないなあ。それだけ可愛かったらモデルさんとかに引っ張りだこだったと思うんだけど」
「それはないですって……」
俺がモデルとか勘弁して欲しい。
今、似たようなことをしている自覚はあるけど、それはそれ。
でも……客観視して、自分の容姿が可愛いことはわかっているつもりだ。
街中で見たら二度見くらいはしそうなものである。
「正面からの写真は今のでいいかな。じゃあ、今度はあの人についていって着替えをしてもらえる?」
「…………はい?」
「大崎さんから話聞いてないの? 『魔法少女』のコスプレ写真ってウケがいいのよ。特に梼原さんみたいに可愛い子だったら、ね」
そのとき、俺を見守っていた二人へ恨みがましい視線を送ったが、自分は悪くないと責任逃れをするように身体ごと逸らされるのだった。
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