第20話 巡回聖女ガラテア2

 アンリは黙ってガラテアの話を聞いている。


「アムブロシアの魔女はこの聖槍で永遠の生を実現させることは出来なかった

だが、この聖槍とリゾームの気脈を利用し、女の肉体を覚醒させ女神に昇華させる手段を発見した……この聖槍の力で変異して得られる生は500年程らしい

エルフがそれ以上生きられることを考えると、永遠の生を追い求めたアムブロシアの魔女からすると不足だったのだろう

……この聖槍を使って肉体を昇華させる為の条件、それは魔性と神性を併せ持つこと……そして、男を知らぬ女であることだ、見ろアンリ、聖槍が反応している」


 ガラテアが持つ聖槍が輝いている。


「……私の身体が聖槍の力を求めてる」


 聖槍を持つガラテアの手が震えている。


「私の身体と聖槍が共鳴している……身体の奥が……熱い」


 ガラテアの顔が紅潮し、息が激しくなっていく……汗が彼女の白い肌を流れ落ちる。


「アンリ……お前に聖槍の力を見せてやる」


 ガラテアが黒い修道服を脱ぎ捨て、地底湖の冷たく透き通る清らかな水にゆっくりと身体を浸していく。

 ガラテアが聖槍を両腕で抱くと、地底湖の水がまきあがり彼女の肉体を包み込む。

 形成された清らかな水の球体の中で彼女は胎児のように浮かんでいる。水球の中で彼女は肩を両腕で抱き、身体をよじらせる。

 聖槍が光となってガラテアの体に取り込まれ、聖女として鍛錬され魔力を蓄えたガラテアの肉体が女神の肉体へと変異していく。

 ……眩い光と共に水球が割れ、より美しく生まれ変わった彼女の肉体があらわになった。


「こんなに気持ちいいのは……生まれてはじめてだ……これが聖槍の力か……」

た、魔力がみなぎってくる……最高の気分だ……」


 ガラテアは隕鉄の聖槍を取り込み美しく変異した自身の肉体を撫でまわす。


「おお、我ながら、なかなかいい体になったじゃないか、ふふ」


 聖槍を包んでいた白い霊布が彼女の身体を包み、その霊布の隙間から彼女の細くしなやかな美しい脚部が覗いている。


「……ようガラテア、俺の用意してやった聖槍の具合はどうだい?」


 ……静寂を破り、地底湖に男の声が響く、洞窟の入り口の方向から気味の悪い男が現れた。


「貴様、何のようだ?金は払っただろう」


「ガラテア、よう、随分といい女になったじゃないか」


 突然現れた気味の悪い男の背後には護衛と思しきアマゾネスの傭兵が立っている。


「なあ、ガラテア……あの金じゃ不足なんだ、その綺麗な身体で払ってくれよ聖女様」


「……貴様が私に敵うのか?」


 ガラテアは気味の悪い男を睨みつけた。


「確かにあんたは強い、普通に戦えばなぁ」


 突如、現れた黒い鎖がガラテアの肌に食い込み、彼女の自由を奪う。


「……聖槍にちょっとした細工をしておいたのさ」


「この私に解けない呪いだと!貴様にこんな高度な呪詛が……」


「これは俺の仕事じゃない、ある魔女に頼んだのさ」


「おい!ガラテア大丈夫か!」


 ガラテアと怪しげな男との間に割って入ろうとしたアンリを怪しげな男の背後にいた女傭兵が立ちふさがり足止めする。


 魔力で形成された首輪がガラテアの力を奪い、黒い鎖がガラテアの体を強く締め付ける。


「この私がっ、聖槍の力を手に入れたはずの私が……」


「ガラテア、随分といい身体になったじゃないか……

だがよぅ、隕鉄の聖槍の力を使いこなせてないな

……いい気分だろ、這いつくばりな」

 

 男はガラテアの傍に歩み寄り、彼女を蹴り飛ばし、倒れこんだガラテアの顔を足で踏みつけた。


「うっ、この力は……」


 得体の知れない怪力でガラテアは顔を地面に抑えつけられる。


「野生的な男は好きかい、巡回聖女様?

……獣性開放……」


 ……不気味な男の筋肉が隆起し、悲鳴にも雄叫びのようにも聞こえる奇声を響かせながら、男が得体の知れない怪物へと変貌していく。

 全身を黒い毛に覆われ、体から生えた二股の大蛇が生えた異形の姿。


「なんだ、その姿は……」


「いいだろ、この体……ある方に改造してもらったのさ

獣性を解き放った猛々しい姿、最高だろ?」


「ケダモノめっ!」


「……俺は今、最高に気持ちいいんだ……

ガラテアさんよう、もっともっと、俺を気持ちよくしてくれよぅ!!」


 異形の姿に変異した男は牙の生えた醜い口元からよだれを垂らしながら

長い舌でガラテアの美しい顔を舐める。

 そして、男の二股の蛇がガラテアの美しい白く柔らかな肌を締め付けていく……

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