第16話 アルラウネ
ルースの村から少し離れた山中をアンリ達三人が歩いている。
「目撃情報があったのはこの辺か……瘴気の濃度は……それほどでもないな
……明るいうちに手がかりを掴めりゃいいんだがな」
瘴気計を見つめながら、アンリが呟いた。
「なあ、夜はどうする?探索に行くか?奴は夜行性かもしれん」
手持ち大砲を担いだリンアルド族の大男ディアスは問いかける。
「おれは魔獣のいる夜の山を探索するのは止めたほうがいいと思うぜ」
ジュリアスは周囲を警戒しながら応えた。
「……毛が落ちてるな」
アンリは山道から少し外れた場所に、長い銀色の体毛が落ちているのに気がついた。
「アンリ、なんだかわかるか?」
「さあ?……でも、三つ目オオカミのものじゃないな」
そう言うとアンリはしゃがみ込み、地面に落ちた体毛を手に取り、回収する。
「この辺で魔獣のねぐらになりそうな所を探ってみようぜ」
……三人の周囲に微かに甘い匂いが漂いはじめた。
「!!……甘い匂い?……妙な気配もするな……ディアス、ジュリアス、気をつけろ……」
アンリは声を殺して二人に警戒を促す。
「……例の人喰い魔獣か?」
ディアスも声を殺す。
「……魔力の反応がある……オレ達の方に向かってきてるぞ」
……そして、木々の陰から緑色の肌の美しい女が現れた。緑色の滑らかでしっとりとした肌から甘い香りのする体液がしたたり落ちている。
「アルラウネか……」
「こいつがおれ達の探してる例の奴なのか??」
とジュリアス。
三人の前に現れたアルラウネはジュリアスの顔を睨み付け、問いかける。
「……貴女なの?……最近この山をうろついている気味の悪い魔力の元は」
アルラウネはスカート状になった白い花びらの下から触腕を伸ばし、ジュリアスの足に巻き付き締め付ける。
「……この不快な感じ……サキュバス?でもこの女……何かが違う嫌な臭い、気味の悪い魔力を感じるんだけど」
「くそ、離せ!!」
アルラウネの触腕はジュリアスの身体を更にきつく締め付ける。
「……貴方たち、アタシを捕まえに来たの?」
アンリは減速術式で形成した氷弾をアルラウネに向け足で蹴り飛ばす……氷弾は着弾と同時に炸裂し、氷の刃となってアルラウネの身体を貫いた。
「ああっ痛っ!冷たっ!!」
アルラウネが怯んだ隙にジュリアスは触腕の拘束を振り払い、距離をとる。
「ちっ、やるじゃない」
ディアスが肩に担いだ手持ち大砲をアルラウネに向け発射する。
ディアスの持つ手持ち大砲、ホルテンシウス砲はロザーナ公国のオルテンジア地方の発明家レオナルド・フェリが発明した擲弾を発射する軽砲である。リンアルドやオークのような巨躯の種族には重宝されるが、反動が大きく人間には扱いにくい。
……爆風が山の木々を揺るがし、焼け焦げた臭いが山林に立ち込める。
「ちっ、大して効かねえか」
……爆炎の中から平然と現れたアルラウネはアンリ達の顔を品定めするようにじっと見つめる。
「……アタシとやる気なの?……いいわ、返り討ちにしてあげる」
アルラウネは細い肩を震わせながら、花粉を頭に生えた白い花からまき散らす。
「魔力がたっぷり詰まって……美味しそうな匂い、男の子二人に私のエキスを体に注入して女の子の身体に作り変えてから、マンドラゴラの種子を植え付けて私の仲間にしてあげる……そしてサキュバスは殺す」
ディアスが再度、アルラウネに向け砲弾を放つ。
「効かないわ、減速術式、アクアスパーダ!」
砲弾は炸裂するも、アルラウネが展開した幾本もの水の刃により爆炎はかき消された。
「アタシの弾丸を喰らいなさい」
アルラウネは腕についた紫色の可憐な花から種子を連続で射出する。
「マンドラゴラの種子だ!喰らうと寄生されるぞ!」
アンリが叫ぶ。
ジュリアスは種子の弾丸をかわしながら、銃剣で触腕を切り払い、間合いを詰める。
「鈍いな、一撃かましてやるぜ!」
ジュリアスのアルラウネへの鋭い一突き……その一撃がアルラウネの身体に深い傷をつくり、傷口から乳白色の体液が流れ出る。
「くっ、やるじゃない……」
ジュリアスの次なる攻撃を触腕で受け流すが、アンリの放った氷弾が炸裂しアルラウネを足元から凍り付かせ身動きを封じる。
「くっ!」
「もらったぜ!」
ジュリアスの銃剣がアルラウネの身体を深く貫いた。
……そんなアンリ達の姿を銀髪の少年が樹上からじっと静かに見つめていた。
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