第7話 負の連鎖

「疫病の正体は明らかになったのか」江角内閣総理大臣は居並ぶ重要閣僚にこの1時間の間の何度目かの質問を浴びせた。閣僚たちの目は内藤防衛大臣に向けられた。「まだ報告が上がってきていません」

「こういう非常事態への対応に慣れている米国のCDC(アメリカ疾病予防管理センター)に調査を依頼するというのはどうですか」木内厚生労働大臣が思いつくことはいつもの丸投げだった。

「すぐに米国に頼るというのはどうなんだね。君には独立国家としてのプライドが無いのか」有効な対応策が一向に打ち出せないことに江角は苛立っていた。

「東日本大地震、コロナウイルスによるパンデミックなど日本を襲った緊急事態の経験が全然いかせていないじゃないか」江角は今になって、CDCのような独立した専管組織を設置しなかったことを悔やんだ。元はと言えば、設置に反対する厚生労働省の圧力に木内が唯々諾々と従ったことが原因だった。

 重苦しい空気が会議室を支配していた。誰も発言しようとしなかった。江角は先ほど会議室を慌ただしく出ていった三井官房長官が血相を変えて戻ってきたことに猛烈な不安を覚えた。江角の耳元で囁かれた三井の声は震えていた。

「総理、千葉県で鳥の大量の死骸が発見されたという報告がありました」負の連鎖が始まろうとしていた。

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