229.先駆者
お昼は注文していた重役弁当。重役弁当の名に相応しい、おかずのラインナップ。
俺の銀鱈の西京焼きはかりんに取られたが……。そして、かりんの皿には山盛りの料理とごはんが載っている。食べれるの?
「きゅ~!」
何度も言うがTPいらねんじゃね?
メンバーが揃うまで個室でお昼寝。かりんは女性陣の取り合いで少々ぐったり気味。
寝ながら考える。もう少しで夏休みが終わる。正直、何も夏らしいことをしてねぇー。狩り以外なにもしていない気がする。海にも行ってない。プールは……フィットネスクラブのプールは行ってるが、夏に関係あるか? ないな。
はぁ~、実家にも帰っていない。来月からは自衛隊から新人がやって来る。それを考えると九月の第三週の土、日を逃すと帰るのがいつになるかわからない。必ず帰ろう、そう心に決めた。
結局、女性陣が姦しく寝れなかった……。
中央テーブルに行くと二軍と三軍も集まっていた。二軍は午前中に分かれて
麗華に鑑定のスクロールを渡す。
「これはなんだい? 恢斗」
「鑑定のスクロールだな。これから麗華の役に立つだろう」
麗華がスクロールを開き一瞬顔を歪める。覚えたようだな。
「二軍は誰が覚えたんだ?」
「俺です。アニキ」
昌輝か。理由を聞くと今のところ戦闘で役に立つスキルを持っていないのでTPに余裕があるからと返ってきた。たったTP5、されどTP5って感じだな。
二人に使い方を教える。
「では、これで未登録のホルダーの位置がわかるのだね? 恢斗」
「アニキ、すぐ近くにあるみたいなんですけど? これはどうしてでしょうか?」
なぬ? 確認してみると、あるな。
「月山さん、最近なにか届け物とかありませんでしたか?」
「風速くんがお昼寝中に、ホルダー管理対策室から風速くん宛に荷物が届いているわ」
大きな段ボールだ。中を確認するとバッグが詰まっている。手紙も入っていたので読んでみる。映像提供の感謝状とある。沢木管理官だな。内容は皮肉めいたことがつらつらと書かれている。苦笑いだ……。
月山さんに手紙を渡し、お礼にお礼もなんだが何か送っておいてくださいと頼む。
バッグは二十個。
「恢斗、これはまさか……」
「すべて未登録のホルダーだ。沢木管理官も奮発したな」
「どうしてそこで沢木管理官の名前が出るのかしら?」
俺たちの知らない間に月山さんが、ホルダー管理対策室に映像提供していたことを教える。月山さん、顔を引きつらせている。
「警察からの依頼を断れるわけがないでしょう!」
「そうですわね。さすがに断るのは恐れ知らずですわ」
「月山さんはホルダー管理対策室に貸しを作ったつもりかもしれないが、あいつらは借りを作ったなんてこれっぽっちも思ってなんかいない。ちゃんと釘を刺すか、その都度清算させないと駄目だ。平気で証拠品だとか言って借りパクするぞ、あいつら」
「……」
月山さん、思い当たる節があるようだな。
「だから、その件を俺が清算させた結果がこれだ」
取りあえず、麗華に五つの未登録のホルダーを渡しておく。残りは俺が預かる。
二人には暇がある時には常に鑑定しろと言っておく。そして、もし高適合率のホルダー候補者を見つけたら、名前と見た目の年齢、特徴をメモしておくように言う。
「適合率は最低どのくらい必要なんだ? 恢斗」
「最低125%前後だな。それ以下だと今いるメンバーと将来的に差が出てくる可能性がある。それを念頭に入れての選抜なんだが、適合率の低い者だけを集めるのもそれはそれでいいとは思う」
「どう違ってくるんですか? アニキ」
そういえば、まだ言っていなかったな。
「適合率が150%を超えるのを楽しみにしておけって、何度も言っているよな?」
二軍、三軍が頷く。朱珠と陸は知っているはずなんだが?
「適合率が150%を超えるとステータス値に補正が入る。それだけでなくレベルアップ時の獲得SPも増える。これは適合率から計算できるもので、適合率が高ければ高いほど上がっていくことになる」
ごくりと唾を飲む音が聞こえる。
「単純に教えると150%を超えると適合率の50%、200%を超えると適合率の100%分が補正値として増えることになる」
「アニキや姐さんたちの適合率はいくつなんですか?」
「お前たちの遥か先とだけ言っておこう」
こいつらのは教えてもいいのだが、水島顧問には教えたくない。水島顧問に教えるとホルダー管理対策室に流れ、馬鹿なことを考える輩も出かねない。まだ、余計な軋轢は生みたくない。
「俺が言ったことを理解できればわかるはずだ。如何にレベルの低い間に適合率を上げなければならないか。おそらく、今のお前たちだと八等呪位以下を倒しても適合率は上がらない。少し格上くらいがちょうどいい」
全員納得したようだな。お前たちが憎くて七等呪位と戦わせているわけではないと理解できたろう。できたよな? できましたよね?
「ただ、ここで間違っていけないのは、格上というのはステ値ではなくレベル的にだ。ハイランクキラーが得られるか得られないかの境界が、格上か格下の境界と考えている」
「その境はいくつだと考えているんだ? 恢斗」
「おそらくだが、七等呪位だとレベル25からレベル30だと思っている。だから、俺は六等呪位狩りに変えた」
「どこまで続くと考えてらっしゃるの?」
「残念ながらわからない」
自衛隊でさえハイランクキラーについて気づいていない。ということは、ホルダー管理対策室も気づいていないということだ。それすなわち、誰も統計を取っていないということ。
俺たちが先駆者ってことだ。
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