228.かりんの今後

 装備の性能を知った二軍の意見は聞くまでもないが、一応聞いておく。


「それで、どうする?」


「仕方ないので、俺たちがカード集めをするっす。アニキ」


「装備はすぐに平均化してくれますか? アニキ」


「そうだな。じゃあ、交互に一個ずつ選んでいけ」


 そして、駆け引きが始まる。見ていて面白いな。二軍はやはり昌輝が軍師役で朱珠がその補佐って感じ。三軍は隼人と柊が相談して決めていく。そして双方納得しての終了。明日からもこれでいこう。


「よし。解散な。三軍は紙にステ値書いてから帰れよ」


「「「「「うぃ~っす」」」」」


 さて、家に帰るにしても一つ問題が残っている。


「きゅ~?」


 そう、こいつだ。かりんをどうするかだ。問題は俺の住んでいる部屋がペット禁止なこと。もし、連れて帰るにしてもどうやって連れて帰るかも問題。さて、どうしよう?


「お前、ここで一人でも大丈夫か?」


 抱き上げて聞いてみる。


「きゅ……」


 悲し気な目で俺を見つめるかりん。言葉を理解しているな。さすが、霊獣といったところか。


「とはいえ、連れて帰るにもなぁ。首に巻いて襟巻って誤魔化すにも、今夏だしなぁ」


 さすがに無理がある。


 そしてなぜ、星野さんがかりんを抱っこして持っていく?


「うちで面倒を見ます。安心してください」


 星野さん、可愛いもの好きだったな。ミニ雪だるまも気に入って持って帰っていたし。だが、かりんはやらん!


「いやいや、そいつのご飯は俺しかあげられませんからね。飢え死にさせるつもりですか?」


「か。かりんちゃん……」


「きゅ……」


 かりんと抱き合ってさめざめと泣く振りをする星野さん。三文芝居はそれくらいにしてください。


 正直、今日だけのことじゃないんだよ。大学が始まったらどうするかも考えないと。これは早く引っ越す必要があるのか?


「なあ、かりん。お前、姿を隠すとかできない?」


「きゅ~!」


 できんの!? 


 ぼや~とだんだん姿が薄くなっていくが、半透明にはなったが消えてはいないな。


「凄い、かりんちゃんが消えました!」


 えっ? そうなん?


 清和せいわさんに目で問うと頷き返した。


 半透明のかりんを抱き上げる。半透明になるだけで、質量は変わらないようだな。


 まあ、これなら部屋に連れて行ってもいいか。おとなしくするんだぞ?


「きゅ~」


「嗚呼、かりんちゃんが連れ去られていく~」


 なんすか? その哀愁漂う芝居じみたセリフは。


「明日もちゃんと連れてくるんですよ! 風速くん!」


 はいはい、連れてきますから安心してください。


 じゃあ、帰ります。


 そんな、ハンカチを口で引っ張りながら見送るのやめれ!


 電車に乗って帰っている途中、小学生低学年くらいの女の子が俺のほうを指差し、と言ったときには焦った。見える人には見えるようだ。霊獣だけに霊感のある人には見えるのだろうか? それとも純真ピュアな心の持ち主にだけ見えるとか?


 次の日、クレシェンテの事務所に行くと、なにやら騒がしい。


 中央テーブルに行くと、


「「「かりんちゃん!」」」


 騒がしかったのは、かりんを探していたんかい!


「どうして、連れて帰ったの! 風速くん!」


「どうしてって、ここに置いていけるわけないでしょう?」


「なら、私が面倒を見ます!」


 あんたもかい! 月山さん!


「ご飯は俺しかやれないので却下です」


「ぐぬぬぅ」


 なぜ、悔しがる?


「な、なんですの!? そ、その可愛い子は? 寄こしなさい! 恢斗!」


 あー、こいつもモフラーだったな。面倒くせぇー。


 ちょうど麗華もやって来たので一緒に説明する。


「あの卵か? しかし、可愛い子だな。恢斗」


「こんな可愛い子が恢斗と一緒に暮らすなんて……犯罪ですわ!」


 犯罪ちゃうから! わけのわからないこと言うのやめれ!


「私も卵が欲しいですわ!」


 といわれても、これだけは運だしなぁ。水島顧問もレアみたいなこと言ってたし。頑張れとしか言えない。


 しかし、麗華もかりんを抱っこしてデレデレだな。いつも凛々しいのにギャップ萌えって奴だな。


「今日の十六時に椅子の業者が来るから、確認をお願いね」


 瑞葵と麗華は昨日、家から月山さんにリストを送っていたそうだ。


「それと、待望の副顧問の選定の目途が立ちました。みなさんが希望していた錬成に詳しい方のようです」


 ほう。それは凄いね。


 どうやら、神薙家の力をフルに活用したみたいだ。


 以前に聞いたことがある錬成を請け負っている村から、事情があって出た人らしい。結構なご高齢らしいが腕は確かなんだそうだ。


 今月末の土曜日に面接を行う予定。瑞葵と麗華がな。今回は俺はノータッチだ。約束だからな。


 そうなってくると、やはり鑑定のスクロールは麗華に使ったほうがいいな。


 後で渡そう。







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