75.契約

 アイスを食べ終わったので本題に入ろう。


 と思ったら、今度はポテトフライとドリンクのお替りを頼んでいる……。お前らの胃袋はどうなっているんだ?


「それで、なんであんなところでウロウロしていたんだ?」


「実は……」


 それは、聞くも涙、語るも涙の話だった。実際、聞いた話はそれこそ、ドラマや小説などの中の話だけだとばかり思っていた内容だった。


 勇樹は高校一年。翔子は中学三年。


 二人は母親との三人暮らし。父親は二人が小さい頃に失踪。それでも母親が頑張って二人を育て、兄勇樹を高校にまで入れた。ここまでは、まあいい話かなって思っていた。


 それが変わって来たのが半年前。勇樹を高校に入れるため母親が水商売に転職。そこから坂道を転がり落ち始める。


 母親が水商売で知り合った男といい仲になり、だんだん家に帰って来なくなった。最初の頃はそれでもお金は置いていたそうだが、二か月前にとうとうその男と失踪。二人は相談どころか知らない間に連絡がつかなくなったそうだ。


 二人の通帳に少しはお金があったが、中高生の貯金など微々たるもの。家賃も電気代も払えるわけもなく。絶望のどん底に。


 大家が良い人だったので、二か月は家賃無しで住ませてくれると言ってくれたので助かったが、電気代は払えず止められたそうだが、水は止まっていなかったので、なんとか食いつないでいたらしい。


 っていうか、二か月って明日で終わりじゃねぇか!


「どうするんだよ? 明日から」


「わかりません……」


「役所には相談したのか?」


「しましたが、失踪した母を探してくれるとは言ってましたが、その後は音沙汰無しです」


 はぁ~、世知辛い世の中だな。


「学校は行っているんだよな?」


「「はい」」


 さて、どうしようか? さすがにここまで複雑な環境だとは思わなかった。だとしても、見捨てるわけにいかないよなぁ。正直、恩を売るなんて話どころか、兄妹の生活・・・・・いや、命がかかっている。


「頼れる親戚とかいないのか?」


「いません……。祖父母の顔すら知らないので」


 参ったな、お手上げか。


 数年後、ホルダーになるまでの投資か……。俺の手に余るな。瑞葵と麗華に相談したいところだが、時間が時間だしな。勝手に決めてしまうのは申し訳ないが、二人に話すのは明日だな。


「いいだろう。これも乗り掛かった舟だ面倒を見てやる。数年間は二人に投資してやる。しかしだ、対価は頂くぞ。これは契約だ、どうする? 受け入れるか?」


「た、対価って、な、なんですか? 翔子の体が目当てなら断ります!」


「体といえば体だが、俺が言う対価は労働だ。取りあえず、休みの日は俺の仕事を手伝ってもらう」


 翔子は小動物系の可愛らしい顔立ち。将来は美人になるだろう。だが、まだ中坊だろう? ないな。


「ど、どんな仕事ですか?」


「陰ながら人を助ける仕事だな。だが、このことは絶対に他人に漏らしてはいけない。守秘義務が課せられる。表ではできない裏の仕事になるが、犯罪を犯すなどではないから安心しろ。最初に言ったとおり、人を助ける正義のヒーローのお手伝いだと思えばいい」


「悪の組織と戦うんですか!」


「ほぇ~」


 やっぱり、そういうのがお好きな年代なんだろうな。俺みたいにスレてないから、正義のヒーローなんかに憧れを持っているんだろうな。


「そうだな。悪の怪人と戦うお手伝いと考えればいい」


「やります!」


「できる……かなぁ?」


「なら、契約として成立だな? 本当にいいんだな?」


「「はい」」


 よし、ホルダー二人ゲットだぜ!


「今からお前たちの家に行くぞ」


「どうしてですか?」


「ほぇ?」


「明日、出て行かなければならないんだろう? 善は急げだ。今日から俺の部屋に準備が整うまで当分泊めてやる」


 俺の部屋に三人で寝泊りはきつい。どこかに部屋を借りるまでの間は仕方がない。


「でも、荷物とかが……」


「それも含めてなんとかする。行くぞ」


 会計を済ませてびっくり。万札が消えた、カレー屋で……。


 それはさておき、二人の住んでいるアパートはいつも行くスーパーの近く。俺の住んでいる部屋とも意外と近い。


 二階建て八部屋のアパートで一階の角部屋。鍵を開け部屋に入るも真っ暗。電気止められてるんだったな……。


 二人はランタン式の懐中電灯で生活していたようで、それを使い部屋を見る。正直、なんもないな。母親が持って行ったのかと聞いたが、元からこんなものだそうだ。そうなの? 学習机やテレビすらないぞ?


「二、三日分の着替えと学校の道具だけ別にしろ」


 そう言ってから、取りあえずホルダーに台所にあるものを収納していく。


「えっ!? ど、どこにいったんですか!?」


「ほぇ~?」


「いいから、さっさと動け! 明日になっちまうぞ!」


 台所の物を収納し終わり風呂場や物置などの荷物を収納。洗濯機もないのだが、どうやって洗濯していたのだろうか?


 二人が言われた荷物を分けたところで、その他の荷物や箪笥や布団を収納していく。たいした時間もかからず部屋には何もなくなった。


「もう、ないな」


「はい」


「寂しいね……お兄ちゃん」


 気持ちはわかるが、どうしようもない。母親が戻ってくる可能性もあるが、その時はその時だ。


「行くぞ」


「「はい」」


 部屋の鍵は明日勇樹が大家に返しに行くそうだ。


 二人は何度も何度もアパートを振り返り、名残惜しそうにしていたがあえて見ぬふりをした。


 二人にとっては楽しい思い出、つらい思い出の詰まった部屋だったのだろうが、既に新しい道を進み始めたのだ。


 いや、レールの上に乗ったというのが正しいのかもな。


 もう、後戻りのできないレールにな。


 振り返ってる暇なんてもうないんだ。


 俺という悪魔ヒーローと契約したのだからな。






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