58.運営資金

「良かろう。人材はこちらで集めよう。表の組織でない以上、人選は厳選しなければならない。それと資金はどうなっているのだね?」


「今現状手元には現金はない。が、組織が立ち上がれば資金を稼ぐ目途はついている」


 小市民の俺に貯金なんてものはほとんどない。学費と家賃は実家から出してもらっているんだ。化生モンスターを倒して得られるポイントも生活費に消えてる。ランクバトルで得られたポイントくらいしか余剰はない。


「目途はあるのだな? 聞かせてもらおうか」


「確定なのは定期的に納品するポーション代。二つ目が……」


 どうする? ここで切り札を切るか? 前に瑞葵には話したことがあるから、知っている可能性はあるか?


「ご当主はスポーツ選手や芸術家などへの経済的支援、または競走馬などの馬主などには手を出しているか?」


「もちろん出している」


「ならばこんなことはなかったか。怪我などで故障しなければ大成したのになと」


「ある。だが、そのポーション如きでは無駄だ」


 初級回復薬だからな。


「だろうな。だが、瀕死の状態からで元通りに治せるとしたら?」


 瑞葵父の眉がピクリと動く。


「上位の化生モンスターを倒すとたまにレアアイテムを得られる機会がある。そこで俺はあるレアアイテムを手に入れた」


「それで瀕死の重傷から回復できると?」


「できる。まあ、検証は必要だがな」


 残念ながら古傷は回復しない。なので、どのくらいの期間なら回復するのかの検証は必要になる。病気に効果があるのかも検証が必要だ。


 だが、効果は間違いない。内臓が零れ落ちるほど斬り裂かれた腹でも跡形もなく治すからな。


「それをこちらに渡すと?」


「それはない。それは命を懸ける俺たちにとっても切り札だ。必要な時に俺に連絡を入れれば使ってやる」


「表には出せん話だな」


「当たり前だ。だからこそいろいろな利益を生む」


 ここまで言えばわかるだろう。生命がかかっているのだから、いくら金を積んで惜しくはないだろう。それだけじゃない、相手に対して大きな貸しを作ることができる。これは資金を得る以上に大きなメリットとなるだろう。


「なるほど。よかろう。だが、まだ足りんな」


 そりゃそうだ。そんな相手がそこら辺にゴロゴロと転がっているはずがない。


「まあな。今の二つは特殊な資金集めの例だ。実際の運営資金集めは、ほかの組織とそう変わりがないと思う。一つはオークションに参加する。これについては既にほかのホルダーから情報を得ている」


「オークション? そのようなものがあるのかね?」


「はい、お父様。実際に使えるか確認済みです」


 俺はまだサイトにアクセスしていないが、瑞葵はやってみたようだな。


「ちなみにだが、どのようなものを取引するのだね?」


「先ほど恢斗が言いました、化生モンスターを倒した時に得られるアイテムや武器防具が出展されていました。ほかにも個別に希望するアイテムの売買が可能のようですわ」


「しかし、運営資金となるほどの利益が見込めるのかね?」


「俺たちが狩る化生モンスタークラスのアイテムならレアでなくとも十万以上はざら。レアアイテムになればそれこそ天井知らずの値段になる」


 アンクーシャなんかオークションに出したらそれこそ、いくらの値段が付くかしれないほど値が上がるだろう。


「だが、レアというくらいなのだから、そう手に入るものではないと思うが?」


「問題ない。俺たちにはそれができる才能がある。そして、それができるからこうして話を持ち掛けている」


 これはほかの組織と比べてのアドバンテージだ……と思っている。ハイランクキラーの取得条件が常識だった場合は除くけど……。


「瑞葵。彼はこう言っているがどうなのかね?」


「今の私はまだ足手纏いでしかありませんが、いずれは可能かと。恢斗に関しては間違いなくとお答えいたしますわ」


「ほう。瑞葵がそこまで人を認めるというのは珍しいな」


 いつも上から目線だからな。


「恢斗。何かよからぬことを考えていませんこと?」


「オ、オッホン。その化生モンスターから得られるアイテムにしても、取引されていることから、何かしらの使い道があると思っている。その辺がわかれば更に資金集めができるだろう」


 そこら辺は引退したホルダーに期待だな。何かあるに違いない。


「あまりやる気はないが化生モンスター退治の依頼を受けるというのもある。実際、国の組織から七等呪位の討伐依頼を一体三百万で受けた。まあ、ちょっとしたいざこざがあって金はもらっていないが……」


「うむ。その話は聞いている。その件に関してはちょうどいいので、こちらで話を付けよう」


 そうだな、ある意味SHAAシャアズに貸しを作った状態だ。その貸しを有効に使って倍返ししてもらえばいい。


「最後にあまりやりたくはないが、俺の鑑定を使って稼ぐこともできる。今回手土産に持ってきた品のようにな」


「……うむ」


 今のはちょっとしたリップサービス……いや、傷口に塩を塗ったことになるのか?


 まあ、どっちでもいいや。






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