49.牛丼一筋……

「興が醒めたわ。今日は終わりね」


 まあ、今から七等呪位を探すとなるとすぐ見つかればいいが、運が悪いと午前様になりかねない。


 呆然と立ち尽くす木村たちをそのままに駅前に戻る。


「飯は食べていくか?」


「お薦めのお店があるのかしら?」


 うーん。今日こそは牛丼が食べたい。


「牛丼だな」


「ぎゅ、牛丼!? とうとう、わたくしも未知なる牛丼を食す時がきてしまったのね……」


 なんだ、その言い方は! 旨くて、安くて、早い、小市民の味方を馬鹿にするのか!


「いいわ。その挑戦受けましょう」


 くっ、何様だよ! まあいい、食ってその旨さに驚くがいい!


 某有名チェーン店の暖簾をくぐる。実際に暖簾はないけどな。


 もちろん、お嬢様は注文の仕方やメニューなど知らないので俺が注文。もちろん俺の驕りだ。


 瑞葵には並盛、俺は大盛。それと豚汁。トッピングにねぎラー油とねぎだく。ちょっとだけ贅沢だが完璧なチョイス。生卵も付けたかったが、牛丼初心者のお嬢様には厳しいと思いやめた。


「ご飯の上に牛すきが載っているなんて、なんて背徳的な姿。これをわたくしが頂くというの……」


 たかだか牛丼を食うだけのに、なんかエロさを感じる……。それにしても、上品に食べるよな。牛丼だぞ? どんぶり持ってがぁーと食うのが旨いんだろうに。お嬢様には無理か。


「お、美味しい……こんな透けて見えるようなお肉なのに、どうしてこんな深い味が出せるの……」


 どうだ、驚いたか。魚市場で忙しく働く男たちの腹を満たしてきた、小市民の味! 


「それに、この辛みのある白髪ネギと、甘くとろける追いネギには感服させられましたわ。恢斗、褒めてあげるわ。いえ、違うわね。このお店のご主人を褒めるべきね」


 チェーン店だから店の主人なんかいねぇよ! 素直に俺をリスペクトしやがれ!


 食後にお茶を飲みながら少しだけ打ち合わせ。


 瑞葵はランクが73アップして6368になり、けむり玉×5と中級BPポーションを手に入れた。


 けむり玉は化生モンスターとの戦闘中に逃げ出せるアイテム。俺のショップを確認したら500Pで売っていた。保険として持っておくにはいいアイテムかもな。


 そして俺はランクが82アップして3542になった。いい感じだ。アイテムは銀腐犬コボルドのカード(3/10)と中級BPポーション。これで銀腐犬コボルドのカードが(7/10)になった。もう少しで召喚できるな。あえて集める気はないけどな。


 最期に明日のSHAAシャアズの依頼について確認して別れた。



 次の日、構内で青い猫のどらちゃんが放し飼いになっており、女子大生にちゅ~〇をもらっては愛嬌を振りまいている姿を見た。化生モンスターでも〇ゅ~るは好物のようだ。化生モンスターとしてのプライドはないのか! まあ、生気を吸うよりはいいけど。


 午後の講義を終え池袋駅に急ぐ。昔は若者の街と言われていたらしいが、今はその面影もない。都会には違いないが少々廃れた感がある。そのせいか、再開発の現場が多く見られる。


 約束の時間二十分前だが、駅前にはいつものライダースーツ姿のガテン系柿崎とスーツ姿の壮年でどこにでもいる眼鏡をかけたサラリーマン風の男が待っていた。俺が近づいてきたのに気づいたようだ。


 花咲充はなさきみつる Lv63 ホルダー1831


 ほう。柿崎より強いな。監視役だけのことはあるな。


「よう、早いな柿崎」


「あの、お美しい瑞葵さんはどうした?」


「さあな。女の準備に時間がかかるのは常識だろう。それに約束の時間までにはまだ時間もある」


 なんて、話をしていると目の前に黒の高級車が止まる。運転手が降りてきて後部ドアを開ければ、お嬢様の登場だ。


「待たせたかしら?」


「いや、今来たところだ」


「瑞葵さんは今日もお美しいです!」


「あら、ありがとう。うちの朴念仁はそういうところに気がつかなくて、張り合いがないのよ」


 嘘つけ! 言ったところで、当然でしょうって言い返してくるのが目に見えている。そんな無駄な作業をするつもりはない!


「それで、そちらが監視役か?」


「ははは……監視役ではなく確認役ですよ。佐藤です。本日はよろしくお願いします」


 初っ端から偽名かよ。


「そうですか。よろしくお願いします。


「あら、偽名でしたの? 最初から仕掛けてきますわね」


「「……」」


 おそらく監視役だから俺と同じ鑑定スキル持ちかもな。プチ鑑定だと名前とレベル、ホルダーランクしか見れないが、プチの取れた鑑定だとステータスとか見れるのだろうか? そうなると隠している加速スキルのこともバレそうだな。


「ははは……何を言っているのかな? それじゃあ、目的地まで案内するよ。柿崎君は向こうのPTを頼むね」


「わかりました。。終わったら連絡します」


「どこまでも白を切るつもりのようよ。恢斗」


「まあ、いいさ。さっさと狩って帰ろうぜ」


 池袋は微妙にうちから遠いからな、帰るのも大変なんだよ。


 車でお出迎えのお嬢様と違ってな。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る