47.賭け仕合

「どうにかしなさいよ。恢斗!」


 どうにかしろと言われてもなぁ。明日の七等呪位討伐の報酬にオークションのことも加えてもらうか?


「!?」


 ほんの一瞬だけ木村が嫌らしい表情を見せた、すぐに真顔に戻ったが。おそらく、何か嫌らしいことを思いついたに違いない。こいつ、絶対信用できない腹黒野郎だな。


「どうだろう。僕と賭けをしないか?」


「賭け?」


「君が僕にランクバトルで勝ったらオークションのことを教えよう」


 なるほど、そうきたか。そういう餌を撒いて罠を仕掛け、美味しい所を持って行く気だな。


「俺が負けたら?」


「君たち二人ともうちの組織に入ってもらおう」


 ん? これって悪くない提案じゃないのか? 俺がこいつに負ける?


 あり得ねぇ~。情報はもらったも同然だ。


「構わないわ。これでオークションに参加できるわ!」


 おいおい、俺が答えるよりなぜ先に了承する! まあ、いいけど。


「いいぞ。リクエスト、ホルダーランクバトル」


『ホルダー3337がランク戦の要請を受けました。仮想バトルモードに移行します』



「簡単にランクバトルを受けたけど、僕に勝てると思っているのかい?」


「やってみればわかるだろう」


「そうだね。じゃあ、始めようか。貫け! 炎雀えんじゃく!」


 持っていた札を俺に向けて飛ばすと火の雀が飛んでくる。田村の攻撃と似ている。これってスキルの力なのか? それとも古来から受け継がれた術なのか?


 水流槍の水球で迎撃。水球を避けるだけの自律思考はないようで、簡単に撃ち落とせた。


「魔槍ですか……それもウォーターボール付き。欲しいですねぇ」


 ウォーターボールじゃなくて水球な。まあ、英語にすれば合ってはいるけどな。


「どうでしょう。さっきの条件にその魔槍も追加しませんか?」


「いいぞ。それでそっちは何を出すんだ? 言っとくがこいつは、あの魔杖以上の武器だぞ。少なくとも五百万はくだらないからな」


 水流槍は黒魔導士の杖の倍以上の売値だから、そのくらいにはなるだろと思って吹っ掛けてみた。


「た、確かにそのくらいの価値はあるでしょうね。疾走狼プロンプトウルフのカード(3/10)ではどうですか?」


「お前は馬鹿か? まったく釣り合わない。それとも舐めてんの?」


 こいつ、俺をアウトサイダーで知識がないとみて、とんでもないこと言ってきやがったな。やっぱりこいつ信用できねぇな。


「じょ、冗談に決まっているだろう? わ、わかった、いいだろう。火魔法のオーブ(1/50)を出す!」


「(1/50)かよ……」


「ぐっ……た、確かに五百万はしないかもしれない。しかし、オーブはレアアイテムだぞ! 相当な貴重品だ。ど、どうだ!」


 まあ、レアアイテムなのだろうが、正直食指が動かないんだよなぁ。火魔法のオーブは(13/50)持ってるし、(1/50)増えたところでなぁ。


「まあ、いいだろう。条件に追加してやる」


『クックックッ……馬鹿な奴だ。これであの魔槍は僕のもの。あいつ、僕に勝てると思っているのか? 愚か者だな』


 小声で聞こえないと思っているようだが、聞こえてるからな。


『これで僕も魔武器持ちになる。当主候補としても一歩リードできる』


 だから、お前の心の声は駄々洩れだぞ。


 それと、当主候補って言ってたな。


「なあ、あんたの組織って土屋陰陽会か?」


「なんだ、うちの組織を知っているのか?」


「お宅の田村って奴と面識があってな。あいつも次期当主候補なんだろう?」


「おいおい、建は土屋幸若序列十位だぞ。次期当主候補には違いないが一番下だ」


 土屋幸若の序列ってのが次期当主候補の序列ってことか? 正直、田村ってたいしたホルダーじゃなかったけどな。あんなのでも序列十位だとすると、次期当主候補ってのはたいしたことなさそうだな。


「ちなみに、あんたは序列何位なんだ?」


「僕か? いいだろう教えてやろう。土屋幸若序列六位だ。すぐに上に上がるけどね」


 序列六位かぁ。微妙なところだな。ホルダーランクは俺に破れる前の田村と300くらいしか変わりがない。なのに間に三人も当主候補がいる。団子状態だとたいした力量差はないんじゃないか?


「さて、おしゃべりはこのくらいにして、勝ってその魔槍をもらおうか」


「できるならな」


 俺に向けて数枚の札を飛ばしてくる。


「その技、田村が使っていたから知っているぞ」


 水流槍と霊子ナイフをしまい、ジャマダハルを付け札を切る。ジャマダハルにも相手を麻痺させる効果があるが、封じられたところでジャマダハルの性能が低いから痛くも痒くもない。


「チッ。馬鹿建の奴が!」


 錫杖を上下に引っ張ると仕込み剣が出てくる。あれ、格好いいな。ああいうの俺好みだ。


 札を諦め剣での攻撃に切り替えてきたが、まあまあって感じ。柿崎の剣技には遠く及ばない。


 だが、ジャマダハルだとリーチ差で戦い難いので、水流槍とチャンジ。


 木村がニヤリと笑った。


 なんだ? もしかして誘導されたか?


「もらった!」


 正直、何がもらったなのかわからないが、奴の仕込み剣を水流槍で受ける。


「掛かったね」


 なんだ? 何か起きているのか? わからん。


 何も変わったところはない。なら攻撃を続けるだけだ。仕込み剣を弾き飛ばそうとすると……なに?


「離れないだと?」


「ふふふ……僕の固有ユニークスキルは吸着。その槍はもうこの剣から離れないよ!」


 水流槍が引っ付いた仕込み剣を地面に突き刺し、札を仕込み剣に張り付ける木村。


「固めろ、土竜どりゅう!」


 自分の剣に札、何を考えている?


 なっ!? 水流槍が、う、動かないだと!









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