20.子どもの喧嘩?

 午後の講義が終了後、矢印の誘導に従って移動。隣の町まで来てしまった。


 小さな商店街の小さな婦人服店にそれはあった。ホルダーだ。なんの飾りもない白い革製のウエストポーチ。値段は五千円。高いと思いながらも買った。


 俺が触っても何も反応しない。試しにホルダーに入るか試したら入った。レーダーの矢印は消えている。もう一度登録前のホルダーどこ? と思うと、あの印が現れる。来た道とは真反対を指している。


 一番間近のホルダーを指し示しているのか?


 帰り道方面なので、とりあえず家まで帰る。まだ矢印はまだ向こうを指し示している。明日、行ってみよう。


 翌日も講義終了後にホルダー探し。四駅先のバッグ専門店に高級そうな赤い革製のシザーバッグがあった。一万七千円もする。迷ったが買った。値段がいいと性能が上がるなんてないよね? 俺のホルダーなんて拾い物だし。


 それと、彼女へのプレゼントと言って買った……そんなのいないけど。


 土曜まで講義の後はホルダー探しをした結果。布製のベルトポーチとポリエステル製のウエストバッグの二つの未登録ホルダーを見つけて買った。ショルダーバッグとかリュックタイプのホルダーはないのか? ランドセルのホルダーなんてあったら面白いのにな。


 矢印はまだほかのホルダーを指し示しているけど、探すとなると遠出になりそうなので保留にした。


 これで登録前のホルダーが四つになった。言い換えれば、四人の仲間を得られるということだ。


 なので、今度はホルダーの適合者探しだな。


 残念ながらレーダーは反応しなかった。うむぅ、そう上手くはいかないか。そういえば、柿崎に鑑定を使ったときにランクと名前とレベルがわかった。ホルダー未登録の人を鑑定するとどうなるんだ?


 適合率42% 佐藤太郎 ホルダー登録不可


 出たね。プチ鑑定くんは俺の心を読んでいるようだ。


 掘り出しものを探しながら街中をぶらつき、すれ違う人を鑑定しまくる。おかげですぐにTP枯渇。そして、ほとんどが20~70%前後でホルダー登録不可。


 いくつでホルダーになれるんだ?


 TP回復を待ちながら街をぶらぶらしていると、ぬめっとした嫌な感じを受ける。レーダーは赤いマーカーを映している。


 なんだ? 矢印が示す方向に進む。だんだんといやな感じが強くなる。


 誰かが化生モンスターと戦っている。


 ホルダー3523   田村建 Lv23


 小妖精鬼ゴブリン十等呪位 鬼の呪いを受けた妖精の成れの果て。知能は低く力も弱い。手あたり次第に生気を吸う。


 田村というのは高校生くらいの気の強そうな男。若いな。あんな歳で化生モンスターと戦っているのかぁ。世の中、世知辛いな。


 武器は木刀と札? で戦っている。木刀を持っているが扱い方はお粗末。偶に火の玉が小妖精鬼ゴブリンを襲っているので、あれが彼の能力の一つで本命なんだと思う。火魔法あたりか?


 その後も戦いを見ていたが、ほかにはこれといった能力はなさそうだ。


 田村は小妖精鬼ゴブリンといい勝負。子どもの喧嘩をしているようにしか見えない。素手で殴りにくる子に、枝と泥団子で応戦する子って絵図。正直、十等呪位に手こずるってどういうことよ? 俺よりランクもレベルも上だぞ?


 見学し始めて十五分後に田村勝利で決着した。


「おい、お前! ホルダーの戦いを盗み見るのはマナー違反だぞ!」


「いやいや、盗み見みてないぞ? 堂々と見ていたが?」


「……」


 別に隠れていたわけでも、コソコソしていたわけでもない。田村と小妖精鬼ゴブリンが戦っている近くで堂々と見学していた。現に小妖精鬼ゴブリンは俺に気づいていて、チラチラと俺を見ていたしな。もしかして、こいつ気づいていなかったのか?


「チッ、格下が失せやがれ! 潰すぞ!」


「それってランクバトルを挑むってことか?」


「はっ、馬鹿か? なんで格下とランクバトルをするんだよ! マジで潰すぞ!」


「なあ、後学のために聞きたいんだが、なんで俺が格下なんだ?」


「マジ素人かよ……レーダ見ろよ。星印があんだろう、それは何色だ?」


 レーダーを見ると確かに星印がある。化生モンスターは丸印だったな。気がつかなかった……。


「赤だな」


「俺のほうは青色だ。赤は自分より上の相手、青は自分より下の相手なんだよ。化生モンスターだってそうだ。そんなことも知らねぇ、格下のカス野郎」


 確かに赤<赤紫<紫<黒って感じだな。だが、今まで青ってのは見たことがない。俺のレベルが低いからか? ということは、この強さの変化はレベルで決まるということか。


 なるほど、本当の実力で決まるわけではないようだな。どう考えても、こいつに俺が負けるという想像ができないからな。


 それにしても、こいつ年下のくせに口のきき方がなってないな。


 人生の先達として、ここは教育的指導が必要だな。






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