第17話美桜の本心
2年生の1学期も終わりを迎え俺たちは夏休みを満喫していた。1日、2日と一瞬にして3週間が過ぎ夏休みも折り返しに差し掛かったとこだった。美桜の病状も悪化することなく時は進んで行った。俺が家で夏休みの宿題をしているとスマホから通知音が鳴った。俺は宿題をする手を止めてスマホに手を伸ばした。連絡は美桜からだった。
『今日から1週間くらい連絡出来なくなるかも』
『大丈夫?何かあったの?入院?』
俺は美桜の病状が悪化して入院するのではないかと不安になった。
『ううん私は大丈夫』
美桜が入院しないことに俺は安心する。
『私じゃなくておばあちゃんが倒れたって連絡があっておばあちゃんの様子を見に行くから連絡出来なくなるかもって思って』
『そっか。分かったよ。体調に気をつけて、何かあったら連絡して』
『うん。ありがとう隼人くん』
この連絡を最後に美桜とは1週間連絡を取ることが出来なかった。
夏休みも終わり2学期が始まった。
俺は美桜を迎えに家に向かっていた。
家の前に美桜が立っていた。
「おはよ美桜」
「あ、隼人くんおはよ」
俺に挨拶をした美桜の声は元気が無いように感じた。何かあったのかな思いながらも俺はそっと美桜の手をつなぎ学校まで歩いた。
学校が終わり帰り道を美桜と二人で歩いていた。今日一日を通して美桜は元気がなくどこか上の空だったように感じる。美桜を家まで送り俺も家まで帰った。
次の日
今日は真夏の暑さを感じるほどの暑い日だった。家を出た瞬間から、背中が汗ばみ、額の汗を拭い美桜の家に向かっていた。美桜の家に着き美桜と一緒に学校に行った。
放課後
暑くてアイスが食べたくなり二人で近くのコンビニに入りアイスを二つ買って、公園のベンチに座り、二人で並んでアイスを食べていた。公園には小さな子供がたくさん遊んでいた。
「ねぇ隼人くん」
隣から美桜の小さな声が聞こえた。
「どうしたの美桜?」
「私ね…私死ぬのが怖くなっちゃた」
「え?」
俺は手に持っていた棒アイスを手から落としてしまった。
「私今まで漠然と死ぬことを受け入れてた」
「…」
「病気になって余命宣告をされて、病気のせいで何度も入退院を繰り返してその度にあぁ私本当に死に近づいているんだなって思ってた」
美桜の言葉に俺は何も返すことができなかった。
「でも倒れたおばあちゃんを見て、おばあちゃんの手を握って人間はこんなにも細くて冷たくなるんだなって思っちゃって…」
美桜の声はとても切なく今にも泣き出してしまいそうだった。
「昔はとても温かくて優しくて、私が病気だって知らされた時も電話で慰めてくれたり会った時は優しく私の頭を撫でてくれたおばあちゃんの温かい手があんなに冷たくなるなんて私、知らなかった」
美桜の目から一筋の涙が流れる。
「人は死んでしまったらみんな等しく固く冷たくなる。」
俺は地面に膝をついて美桜の手を握りながら言う。
「だったら美桜のおばあちゃんが美桜に人の温かさを教えたように次は美桜が俺に美桜の温かさや優しさを教えてよ」
「私が隼人くんに人の温かさを教える?」
「そう。人間が死んで冷たくなっても、誰かにその人の温かさを伝えることができればその人の温かさはきっと誰かの心を包み込んでくれる。辛く苦しい時に心の支えにきっとなってくれる。と、俺は思う。」
美桜の顔から涙が引いた。
「俺は美桜みたいに死が身近にあるわけではないから、今美桜が抱えている恐怖を共感してあげることはできない。でも、それでも美桜がもし、もし明日いなくなっても俺は、俺は美桜のことを絶対死ぬまで忘れない。」
美桜の顔が少しずつ和らいでいく。
「うん。そうだよね。ありがとう隼人くん。おばあちゃんがしてくれたように私も私の大切な人、特別な人に私が居なくなっても私の温かさを覚えていてもらえるように私の温かさ伝えていくよ。」
そう言って笑う美桜は今まで一番輝いて見えた。
それから程なくして美桜のおばあちゃんは病院で息を引き取ったそうだ。お葬式が終わり帰ってきた美桜の顔にもう迷いはなかった。
君の声を忘れない あらいや @araiya
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