第16話 なら、いいじゃないの

日曜の夕方、おれたちは河川敷で夕日が沈むのを見ながら、黄昏れていた。

「今日も手掛かりなしかよ……」

 おれは、そう呟いた。

 白鳥は、さっきからずっと黒歴史に何か書いている。

 なかなか手掛かりを見せない霊を呪っているのかもしれない。

 今日、白鳥はかなりやる気があったのか顔を生き生きさせて、駅で待っていた。

 そして、電車で五駅行ったところにある寂れた神社におれを連れてきた。

 でも、霊は現れず、現在は反省会ということで近くの河川敷にいる。

 河川敷では、地元のサッカークラブが練習をしていた。こんな時間まで熱心だ。

「おれさあ、中学までサッカーやってたんだぜ」

 下でボールを追いかけている子どもたちを見て、おれは自分がサッカーをやっていた頃を思い出した。

「では、高校でもサッカー部に入るのかしら?」

 白鳥が、手を止めて訊いた。

「おれ、高校では部活はやらないと思う……」

「あら、私もよ。……入学説明会の時にもらった学校紹介の冊子から、この学校はあまり部活動に積極的ではないことが読み取れたわ。担任も部活動は希望者だけでいいと言っていたし」

 おれは、そんな冊子は全く読んでいなかった。

「そういえば、お前、中学の時は部活してたのか?」

 少し気になった。

「……一応、してたわね」

 意外だった。

「何部?」

「心霊研究会というものを立ち上げたわ」 

「自分が作っちゃったのかよ」

「いえ、作ったのは別の」

「部員は他にいたのか?」

「私の他に、二人いたわ」

「へえ」

「それで、あなたは、何故サッカーを止めてしまったの?」

 少しの沈黙―――――。

「……自分がちょっと嫌になったんだよ」

「なぜ?」

 これを人に話すのは、初めてだった。

「子どもの頃はさ、何も考えずにサッカーしてたんだ」

 あの子どもたちのように。

「……でも、中学の時にレギュラー争いがあってさ。一学年下の奴にポジション取られちゃってさ。その後は、ずっと補欠でさ。……ホント、情けないよな、おれ」

 あの時は、かなり辛かった。

「……そうね、情けないわね」

 こいつの辞書に慰めるという言葉はないらしい。

「でも、今でもサッカーは好きでしょう?」

 思いがけない言葉だった。

「……ああ」

「なら、いいじゃないの」

 そうか、これが……。

「そうだな」

 こいつなりの、慰め方かもな。

 白鳥美和子が少し分かった気がした。

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