#17 長い髪を切る

 僕は今日髪を切る。

 三年間伸ばした髪だ。訳あって三年間伸ばしていた。それを今日カットする。なんだか少しだけ寂しい思いがある。

 いよいよカットが始まる。

 三年間伸ばしてきた髪とのお別れ。

 ああ、思えば長いようで短い三年間だった。

 ……三年って短いか? 中学生が入学から卒業までの年数だぞ? 高校も同じか。大学生なんか気づけば就活スタートの時期だ。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 あ、ハサミが入った。ああ、切られた。長いくて黒い僕の髪。

 伸ばそうとしたきっかけは、当時付き合っていた彼女が「ロングヘア好き」だったからだ。だから僕は髪を伸ばした。手入れは大変だったけど、一年伸ばしたあたりから邪魔で仕方なかったけど、それでも頑張って伸ばした髪だ。彼女の好きな男になるために。

 髪が伸びていく中で彼女との思い出もどんどん増えていった。いわば、この髪の長さは彼女との思い出に比例する。

 でも、もういいんだ。

 どんどん切られていく髪。それとともに彼女との三年間の思い出が離れていく。

 切られていく思い出。

 いいんだ。

 彼女とはもう別れたんだから。

 彼女はもういないのだから。

 彼女とはさようならをした。だからこの髪ともさようならをする。



 終わった時、僕の頭に髪の毛は存在しなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る