第6話 森の記憶

 精霊はブラックが帰った後、昔のことを思い出していた。

 

 私は一本の若木として立っていた。

 その頃の私は自我すらなく、私は生きるために必要なたくさんの物を吸収して大きく育つだけだった。

 私はいつの間にか大木となり、たくさんの枝や葉を茂らせ年を重ねるたびに大きくなったのだ。

 その頃には私だけでなく、同じような仲間も周りに育ち始め、私を中心に森が作られたのだ。

 そしていつの間にか私は自我を獲得したのだ。


 だが、それからしばらくしてのことだった。

 私が全身で危険を感じる黒い影の集団がこの世界に現れたのだ。 

 それは動けない私達に入り込み、エネルギーを吸い取っていくのだ。

 多くのエネルギーを吸い取ると、その集団は満足したのかどこかへ消えて行ったのだ。

 成す術のない私達は生命力を吸い取られ、弱ったり消滅するものもいたのだ。

 私もエネルギーを吸い取られはしたが、ある程度の年月をかけて、何とかまた元の大木に戻る事が出来たのだ。


 だがその時から、数百年に一度その黒い影の集団による襲撃を受ける事となった。

 それも段々とその侵食によるエネルギーの消失は、大きなものとなっていったのだ。

 そして私も簡単には復活する事が出来なくなっていた。

 そんな時ハナや舞に助けられ、私は消滅する事は避けられたのだ。

 そして長い年月と共に色々な知恵、感情という物が私には備わり、実体を作り出し自由に動く事が出来るようになったのだ。


 あの黒い影・・・

 数百年ごとにやってくる者達。

 その正体は未だわかっていない。

 わかっている事と言えば、負のエネルギーの塊で、侵食し我々から生命エネルギーを吸い取っていくもの。

 また動物や人などが侵食されると、その黒い影の意志に操られてしまう。

 自らを結界で守る事が出来る魔人や強い魔獣であれば侵食を防げるが、病に侵されている者や弱っている者、そして精神力の弱い人間などでは太刀打ち出来ないのだ。


 そしてその黒い影達も長い年月をかけて、私と同じように自我を修得し意志を持ち始めているという事。

 彼らの目的も変わりつつあると思うのだ。

 昔は単純に生存するためにエネルギーを得ていたはず。

 だが今の彼らは意志を持ち、何かしらの考えがあるはずなのだ。

 もしかすると、私のような実体が存在してもおかしく無いのかもしれない。

 自分達の繁栄を目指すとしたら・・・

 何にせよ、今のこの世界には人間も出入りしているのだ。

 危険が及ぶ前にどうにかしないと・・・

 

 私はドラゴンが眠っている封印の石を見ながら、ため息をついたのだ。

 

「君はまだ眠っているのかい?」


 そう話しかけると、石の中のドラゴンが目を開けたのだ。

 だが、すぐに目を閉じて、また眠りについたようだ。

 舞が良心を目覚めさせたドラゴン・・・

 今は不完全体のため封印の石の中で眠っているのだ。

 どうもこちらの考えは伝わるようだ。

 目覚めるのもそんなに先では無いのかもしれない・・・

 

 私は封印の石から離れ、目を静かに閉じたのだ。

 森の記憶を遡り、黒い影について情報を集める事にしたのだ。

 それが、この森や自分の為でもあるのだ・・・


 

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