第5話 森の精霊
魔人の王ブラックは、この世界に古くから存在する森に向かった。
そこには自然から生まれし存在である精霊が住んでいるのだ。
少し前に、黒い影に侵食された森を舞やブラック達魔人で助けたのだ。
その黒い影は数百年に一度定期的に訪れ、森を侵食してエネルギーを吸い尽くすと言われていた。
だから今度来るとしても、ブラックはかなり先と考えていたのだが・・・
私は森の入り口に着くと、真っ直ぐに伸びている小道を進んだ。
そして力強い大木のある広場に出ると、周辺の蔓や枝がザワザワと動き出し、小さなトンネルを作り出したのだ。
いつものようにそのトンネルを抜けると、そこは精霊が作る空間になっていた。
そして目の前に、優しく光る精霊が立っていたのだ。
「ブラック、お久しぶりです。
舞が帰って以来ですね。」
そう言って、微笑んだのだ。
久しぶりに見る精霊は以前よりも輝きを増して、とても美しい青年の姿をしていた。
そして美しいだけでなく、また一段と力が強くなったように感じたのだ。
私とは持っている力の種類は違うが、あまり敵にはしたくない相手と思った。
ただ一つ、舞の事を除いてだが。
「そうですね。
実は相談したい事があって来ました。」
「魔人の王であるブラックが私の所に来るとは、舞の事か・・・もしくは大きな問題があると言う事ですね。」
「はは、その通りですね。
今回は後者ですがね。」
私は苦笑いをした。
そして、先日捕らえた魔獣が入ったキューブを取り出し、元の大きさに戻したのだ。
この結界のキューブは便利で、大きさが自由自在なのだ。
大きな物を入れることが出来るし、小さくして持ち運ぶ事も出来るのだ。
私は手の上にキューブを浮かせて、精霊に見てもらったのだ。
精霊はそれを目にすると、さっきまでとは違う真剣な表情に変わったのだ。
「私の森やこの周辺には来てないはずです。
黒い影が近付けばわかりますからね。
まあ以前と違って、今は簡単にはこの森に入る事は出来ませんが。」
以前より力を増した精霊である為、今度は簡単には侵食される事は無いらしい。
それに、舞から貰った薬をいくつか作り出せるようなので、自己回復も可能なのだろう。
薬となる植物が、この精霊の作る空間に元気に育っているのが奥に見えたのだ。
「以前は数百年毎の襲撃と言っていた様な・・・
まだあれから一年も経っていないかと。
これは一体・・・」
「確かに・・・私の憶測ですが、前回の襲撃の時に十分なエネルギーを吸い取る事が出来なかったからかと。
その為、再度早いうちにまた現れたのかもしれませんね。
昔と違いあの黒い影には意志が存在しましたし・・・
何か意図があるのかも知れません。
・・・この侵食された魔獣が何か訴えているように見えますが・・・
結界でよくわかりませんが、出す事は出来ますか?
ここなら私の支配する空間なので、問題ないかと思いますよ。」
「ああ、そうですね。
出してみましょうか?」
私は手の上で回るキューブに力を込めて、結界を破壊したのだ。
解放された魔獣は暴れる事なく、こちらを見て佇んでいた。
しかしどう見ても、負のエネルギーを放つ黒い影に侵食されている魔獣である事は明らかだった。
少しすると、ある思念が伝わって来たのだ。
『・・・我々の生存を脅かす者を許す事は出来ない。
あのお方の為にエネルギーが必要なのだ。』
そう伝えて来た後、こちらに襲いかかって来たのだ。
しかしここは精霊が支配する空間の為、精霊の意志により魔獣は動きを止められたのだ。
私は綺麗な石を作り出しその魔獣に投げると、額の部分にその石を埋め込んだのだ。
そして私に支配される事になった魔獣から、黒い煙のようなものが外に出て来たのだ。
するとすぐに黒い集合体となり、エネルギーを吸い取ろうとこちらに向かって来たのだ。
私は左手を向けて力を込め、黒い波のような衝撃波を放ったのだ。
それにより、黒い集合体がその衝撃の波に包まれるような形となり、一瞬光るとあっという間に消滅したのだ。
私はユークレイスがいれば少しは情報が得られたかもしれないと残念に思ったのだ。
そして、私と精霊は厄介な事になったと顔を見合わせたのだ。
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