第3話 準備
朝目覚めると、そこは私のお気に入りの物に囲まれた部屋だった。
ここはケイシ家のお屋敷だが、今度は仮住まいではなく自分の部屋として使って良いと言われたので、私の好きな物で溢れていた。
実は昨日、カクが部屋の片付けを手伝ってくれたのだ。
カクは私が段ボールから出す物全てに驚いてばかりだった。
本当はスマホやゲームなども見せたかったが、この世界に必要がある物とは思えなかったので、あえて持ってくるのをやめたのだ。
別の世界から来た者が、この世界に不似合いな物を持ち込むべきでは無いと思った。
ただ、自分の住んでいた世界の物が誰かの助けになるのならと思い、前と同じように衛生用品はある程度持ってきたのだ。
一階に降りるとすでにカクも起きていて、私が起きるのを待っていたようだ。
「舞、これこれ。
全部揃ってるよ。」
テーブルには薬師の学校で必要な物が沢山置かれていたのだ。
書籍はもちろん、カバンや薬師の学生の衣服まで所狭しと並べられていた。
来シーズンから私は薬師の学校に聴講生として授業を受ける事になっている。
実はカクがそこの先生として教壇に立っているのだ。
このケイシ家は昔から薬師を職業とする一族で、ヨクの代からは王室に仕えているのだ。
ヨクはその取りまとめで、王からの信頼も厚い。
ヨクがこのサイレイ国の国王にお願いして、特別枠として授業に参加できるよう取り計らってくれたのだ。
そしてケイシ家以外で、私が異世界から来た事を知っているのは王と一部の側近だけであった。
カクは得意げに私を見てニヤリとしたのだ。
すごいと褒めてほしいと言うのが見るからにわかった。
「カク、すごいわ。
全部揃えてくれたのね。」
私は少し大袈裟に話したのだ。
「舞が来るまでに少し時間があったからね。
学校が始まるまでにまだ少しあるから、まずは読み書きを勉強だよ。
僕が教えてあげるからね。」
カクは嬉しそうに私を見たのだ。
この世界に来た時から、なぜかお互いに何を言っているかはわかるのだが、さすがに文字は教わらないとわからないのだ。
だから、学校が始まる前に何とかしたかったのだ。
そして文字と並行して、私はこの世界の事を少しずつ教わる事にした。
今まで転移した時にはそれほど必要で無い情報も、この世界に住むとなると知らなければならない事は数多くあるのだ。
正直、買い物をする為のお金についてですら、ほとんどわかっていなかったのだ。
それからカクやヨクに沢山の事を教わったのだ。
この国の制度として殆どの者が世襲性であり、ある意味生まれた家で職業が決まっているのだ。
まあ、自分の住んでいた世界も昔はそんな時代があった訳で何となく理解は出来るのだが、職業選択の自由がある事はとても素晴らしい事なのかもしれない。
と言っても、自分自身は親と同じ職業を選んでいるのだが。
そして薬師と一言で言っても、色々ある事がわかった。
カクやヨクは王室に仕えている薬師で、公務員的なお役所仕事のようなのだ。
それ以外に、町の医療を担うお医者さんのような方もいれば、魔法道具などの開発に携わる研究者のような者もいるらしい。
しかし全ては、これから私が行く予定の薬師の大学校を卒業しなければなれないらしい。
私は聴講生という立場で入るので、好きな講義をいくらでも聞いて勉強して良いと言われていた。
ある意味色々な分野の勉強が出来て、私は楽しみでならなかった。
私の目標はこの世界で薬師になる事ではないので、卒業という資格よりも沢山の知識を得たかった。
私は魔人の王であるブラックの助けになる人間になりたかったのだ。
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