召喚したサキュバスが男だったけどこのままで行くことにした

 苦節数十年、ようやく魔界からサキュバスを召喚する魔法陣が完成した。

 必死に魔法の修行をしたのも、研究を積み重ねたのも、すべてこの日が来るためだった。サキュバスを召喚したなら、あとは……。

(よっしゃあ! これで俺の人生はバラ色だぜ~~!!!!)

 研究通り魔法道具を準備して、呪文を唱えた。すると魔法陣は不気味に輝き、たちこめた紫煙の中から黒い人影が見えた。その人影は露出度が高い服装を見にまとい、頭には悪魔のようなツノが生えていた。足元はハイヒールを履いている。これはどう見ても成功だ。俺はガッツポーズをした……が、

 煙にむせてコホコホ咳をしているサキュバスは、なんだか体系ががっしりしていた。骨格もしっかりしているし、よく見ると……。

「男ぉ!?」

 俺は叫んだ。

「お、男じゃないです! サキュバスです!!」

 必死に取り繕うサキュバス(男)。

「嘘つけえ! お前どう見ても男でしょ。サキュバスじゃないでしょ。インキュバスでしょ」

「サキュバスです!!!」

 野太い声でサキュバス(男)が叫んだ。

「男やんけ!!!」

「うっ……」

 インキュバスはがっくりうなだれた。そして、

「う、うええええ~~~~ん……」

 と、ぴるぴる泣き出した。

「急にどうしたの……」

「お゛っ、お゛れ゛っ、魔界でいじめられててっ……。召喚に応じたくなかったサキュバスにいじられてえっ、サキュバスの代わりに行って来いって突き飛ばされてえっ……、うえっ、ぐずっ、おえええ……」

 インキュバスはその場でガチめにえずいた。魔界にもあるんだ、陰湿な上下関係……。

「ごめんなさい、嘘ついて。あなたが必要なのはサキュバスですもんね。呼んできます。呼んできますからあっ……」

 鼻をぐずぐずさせながら、魔法陣に戻ろうとするインキュバス。そのがっくりうなだれた肩を掴んだ。

「な、なんですかっ……!?」

「君、何か出来ることある?」

「え、えっと、犬の散歩とか……、家事とか……」

 インキュバスは指折って数え始めた。インキュバスなのにインキュバスらしいことはできないんだ……。でもまあ、いいだろう。

「じゃあ、それやってもらおうかな」

「えっ……!?」



「ただいま」

 家に帰ると、あったかい味噌の匂いが鼻腔をくすぐった。

「おかえりなさい。ご主人様。犬の散歩、やっておきましたよ。あったかお鍋が、出来ましたよ~」

 ピンクのミトンを掴んで、エプロンに身を包んだインキュバスがにこにこと土鍋を見せた。

「今日は味噌の鍋なんだ」

「そうです。おいしいですよ~」

 土鍋の蓋を開けると、おいしそうな鍋料理がぐつぐつ煮えていた。

 当初の目的とはだいぶ違っちゃったけど、

(幸せだから、まあいっか!!)

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