この小説に出てくるエピソードは、生きていれば数回は耳にする話。聞いたことがある話。
学校の休み時間、帰り道、宿泊訓練。友達同士で話をする。
「こんなことがあったんだって」
「ええー、こわーい」
そしてお約束のように騒いで、なにもなかったかのように、
「じゃあね」
「またね」
となる。
でも、この小説はそこで終わらない。終われない。主人公、碧さんの呟きが入ってくるから。非常に落ち着いていて、まるで日常風景の一部でもあるかのようなコメント。そこで思う。
「なにこれ? もしかして……実体験?」
そして、どうやらこの碧さん、作者さん、らしい。だって名前が似すぎてる。
それに気づいた時、全身にぞわっと鳥肌が立つ。変な汗が出る。だってもしそうなら自分の後ろにも、横にも、いるかもしれない。
ただ、見えていないだけ。
ねえ、一言言わせて。
「こえええええええんだよおおおおおおっ!」
短編集という事ですが、恐らく語り部の方は同一人物かもしれません。
他の話で出てきたワードが別の話にも出てくる事があり、あっ!!これさっきも出たな!!となるのが楽しい。語り部の背景も少し出てくるので考察するのも良いかと。
ホラーとの事ですが、不思議な話やホッコリする話もあり、グロ要素はほぼ無いので肩の力を抜いて読めるのも嬉しいです!!
幽霊は怖いもの、危険なものなイメージですが、この作品に出てくる幽霊は必ずしもその限りではなく、迷惑だけど悪意の無い者、ただ佇んでいる者、など多岐に渡ります。
怖いのに興味があるけど怖すぎるのは嫌って人もホラー入門にピッタリな作品ですので、是非読んで頂きたい。
個人的には「荒神さま」の話がお気に入りです!!
子猫のお話や、山で出会った不思議な子どものお話など、まだ出だし部分ですが何にこんな惹きつけられるのか…と思っていたのですが、やはりノスタルジーに浸れる心地よさという気がします。
里山と田園に囲まれた地方で幼少期を過ごした者としては、肌感覚で覚えているあの頃の空気感。仄暗い闇の中に何か潜んでいるのでは、と日々ハラハラドキドキしていた頃を追体験する楽しさを感じています。
横溝正史の映画の風景にもオドロオドロしさよりも、最近では泣きたくなるような懐かしさを感じるんですよね。大野雄二さんの曲が流れてくると。
やはり歳のせいかなぁ、と感じてしまいます。
さて、この先どんな追体験ができるのか、楽しみです。
主人公である「私」を語り部として紡がれる短編集です。
その構成というのか、口調が素晴らしく、1話5分ほどのお話で得体の知れない恐怖や不思議な体験、不可解な現象を体感させてくれます。
その正体が分からないことこそが重要で、遭遇した「もの」の正体が薄らと口語伝承で判明する様など「日本的な神話伝承、あるいは心霊現象などに精通されている方が執筆されているのかな?」と思うほど各話のクオリティが高く、驚かされるばかりです。
色々と書いてしまいましたが、純粋に「人から恐怖体験を聞く」ことや「ネットで洒落怖系の話を見る」のが好きな方は凄く楽しめると思います。
オススメです。