オイルマッサージ

 午後二時を過ぎると、海には人気が少なくなった。

 日差しが高いと海に来る人が多そうだけど、田舎ではこんなものだった。


 たいていは昼近くが一番多い。


「暑いわねぇ」


 ボクはパラソルの下で、おばさんと一緒にいた。

 遠くでは三人がこっちを見ている。


「レンくん。オイル、塗ってくれる?」

「う、うん」


 おばさんは、経産婦とは思えない体をしていた。

 無駄なお肉が少しついているくらい。

 肌は染みがなく、お姉ちゃんと同じ、豊満な肉体。


 白と青のワンピース水着を着たおばさんがうつ伏せになる。


 ボクは渡されたオイルを手の平に塗り、二の腕から塗った。


「ふふ……」

「?」

「ぷにぷにしていて、可愛らしい手ね。わたくしも、女の子ではなく、男の子を産みたかったわ」


 その娘さんが、ボクの後ろに立っていた。

 親にこんな事を言われて傷つくほど、お姉ちゃんはメンタルが弱くない。


 ボクと目が合うと、人差し指を口元に当て、静かにしろと伝えてくる。


「はぁ。気持ちいいわ。反対側もお願い」

「うん」


 反対側に回ると、もう片方の腕にもオイルを塗っていく。

 腕の付け根辺りを塗っている時、肩を突かれた。


 お姉ちゃんがタオルを持ち、自分の顔を指した後、シズカおばさんを指す。


 顔に被せろ、ということか。


 腕にオイルを塗り終わったボクは、おばさんに声を掛ける。


「あの、……日差しが強いから」

「気にしなくていいわ」

「顔に、タオル……、か、被せていい?」

「どうして?」


 後ろを見ると、お姉ちゃんがほふくの姿勢になっていた。


 お姉ちゃん。おばさんに何かしようとしてるんだろうな。

 でも、ボクからすれば、どっちに逆らうこともできないので、仕方なく乗ってあげる。


 ボクが黙っていると、おばさんがタオルを取った。


「これでいいかしら?」


 自分の顔にタオルを被せた。

 気配を感じて振り返ると、後ろには三人が立っていた。


 カリンさんは「すっごい、ムチムチ」と囁く。


「次は足をお願いね」

「うん。分かった」


 オイルを手に取ると、横から安城さんに奪われる。


「……あ」

「どうしたの?」


 口元に指を当てられ、ボクは「んーん」と首を振った。


 ぶちゅるぅ、と小汚い音を鳴らし、オイルを搾り出す。

 手の平いっぱいに載せたオイルをボクよりも慣れた手つきで、両足を揉むようにし、丁寧に塗り込んでいく。


「レンくん。上達するのが早いわね。先ほどよりも、――ンあっ」


 突然、甘い声を出すので、ボクは心臓が跳びはねた。

 おばさんも恥ずかしかったのだろう。

 口を押えて、肩を小さく震わせていた。


「ちょ、ちょっと、安城さん」


 安城さんは真顔で足の付け根を揉み解していく。

 一見すると、普通のマッサージ。

 なのに、親指だけが妖しい動きをしていた。


 水着の股の部分に侵入しては、脱出を繰り返し、ムッチリとした肉を絞るのだ。


 どう見たって、素人にしては手慣れ過ぎている。


「れ、レンくん? そこは、んっ、ダメよ。もうちょっと、下の方をお願い」

「わ、分かった」


 ボクが返答すると、安城さんは下の方をマッサージし始めた。

 水着のして、下の方を。


「レンくん。怒るわよ」

「……ごめんなさい」

「っ。分かったら、……手をどけて。お願いだか――アぁっ!」


 大きなお尻がビクリと跳ねる。

 安城さんは容赦なく、股の部分を擦り始めた。


 見ると、安城さんがとびっきり邪悪な笑顔を浮かべている。

 お姉ちゃんに至っては、口を押えて、笑いを堪えていた。


 まるで、悪戯を楽しむ童子の如く、陰で腹を抱えているのだ。


「レンくんのお母さん。なんか、……すっごいエッチな人だね」


 ヒソヒソとカリンさんが耳打ちしてくる。

 年齢を感じさせない美貌なので、そばにいるボクは、ずっとドキドキしている。


「この子ったら。……ほんとに。仕方ない子ね」


 おばさんは、まだボクがマッサージを続けていると思っているのだろう。

 口調は強いが、抵抗はせず、与えられる刺激を黙って受け止めてくれていた。


 たぶん、お姉ちゃんと同じで、素直じゃない一面があるのだろう。


「……終わりました」


 安城さんが小声で言って、静かに離れていく。

 三人は何事もなかったかのように、海へ戻っていた。

 泳げないと言っていた安城さんだが、遠くに避難するために、入水したのだろう。


 離れた位置で海面から顔を出し、ボクの方をじっと見つめている。


「あの、終わり、ました」


 タオルを取ってあげると、おばさんの顔は真っ赤だった。

 だらしなく涎を垂らし、「んくっ」と生唾を呑む。


「レンくん。年頃だものね。そうよね」


 肩で呼吸をしながら、おばさんは気だるげに体を起こす。


 ぷにっ。


 頬を摘ままれた。


「……えっち」


 申し訳なくて、ボクは安城さん達の代わりに謝るのだった。

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