大阪、下町! 異人狩りの夏。
崔 梨遙
第1話 夏。
高校3年生の夏、僕はフラれた。
細かいことを言っても仕方がない。
僕は、大好きな女の子にフラれたんだ。
相手は、1つ年上の短大生。
本当に好きだった。
仲も良かった。
でも、彼女はバイト先の男と付き合うことを選んだ。
ゴリラみたいな男だった。
何をやる気も失った。
だが、恋が終わったからといって、夏休みが終わる訳ではない。
僕達の夏休みは、もうしばらくあった。
繁華街の中の小さな公園。
僕は缶コーヒーを飲みながら座っていた。
右には、モンちゃん。
左には、モンちゃんと同じ高校のヤス。
モンちゃんやヤスとは、自動車学校の合宿で知り合った。
「なあ、翔(しょう)」
「ん?なんや?」
「ちょっとは元気でたか?」
「全然」
「今、どんな感じや?」
「心が、何も感じなくなってる」
「重症やな」
「モンちゃんはいいよ、彼女がいて」
「そんなに女がほしいか?」
「あれ?ヤス、彼女欲しくないの?」
「どっちでもええわ」
「俺も、そんなこと言えたらええのにな」
「けどな、翔」
「ん?」
「あっち見てみろや」
「ん?何?」
「あそこの黒人と白人おるやろ?」
「ああ、おるなあ」
「2人で4人も女をはべらせてるで」
「そやなぁ」
「それでも、心が何も感じへんか?」
「いや、そんなことはない」
「なんか、腹が立ってけえへんか?」
「なんか、腹が立つなぁ」
「腹立つやろう?」
「おお、腹が立ってきたわぁ」
「ほんで、どうするねん?」
「行ってきたるわい!」
僕は、外人達の側へ近付き、女をはべらせている白人の方の頬を思い切り殴った。
“ごっつ爽快や!”
と、思ったら、黒人の方に蹴り飛ばされた。
“ごっつ不愉快や!”
立ち上がると、白人が殴りかかってきた。
なんとかかわして、その腕をつかんで一本背負い。
大柄な白人が宙を舞った。
“1本!”
すると、黒人に横っ腹を蹴られた。
再び吹き飛ぶ、僕。
立ち上がって、殴りかかってくる黒人の腕をつかんで再び一本背負い。
宙を舞う、大柄な黒人。
“1本!”
快感に酔いしれていると、背中を蹴られた。
ベシャッと地面に叩きつけられる、僕。
“あ、そろそろヤバイかな?”
と、思ったときに、モンちゃんとヤスが乱入してくれた。
モンちゃんが黒人にタックルして、ヤスが白人に跳び蹴りをした。
隙が出来た。
その間に、僕を抱えて逃げてくれた。
喫茶店に入った。
僕のTシャツには、足跡がついて恰好悪かったけど、仕方ない。
僕は、興奮冷めやらず、といった感じで、自分の右の拳をみつめていた。
「お前は、いきなり何をするねん?」
「きっかけを作ったのはモンちゃんやろ?」
「誰も、殴りかかれとは言うてへんがな」
「ほな、なんであんなこと言うたんや?」
「俺、なんか言うたか?」
「腹立ってきたやろう?言うたがな」
「お前が“心が、何も感じなくなってる”って言うから、怒りの感情を思い出させようとしただけや」
「でもな」
「なんやねん」
「俺、ごっつスカーッとしたわ」
「なんでやねん。やられとったやんけ」
「確かに、蹴られたのは痛かった。あいつら、どんだけパワーあるんか知らんけど、簡単に吹き飛ばされたわ」
「見とったから、よう知ってるよ」
「けどな、最初に拳で思い切り殴った時、ごっつ快感やったんや」
「なんやそれ?」
「わからんけど、すごい気持ち良かったんや」
「それがどないしてん」
「なあ、またやろうぜ」
「何を?」
「異人狩り」
「なんやねんそれ?」
「日本で大勢の女の子をはべらせてる異人共に制裁を加えるんや」
「めちゃくちゃやな」
「いや、これは天誅や。きっと、俺達にやれっていう天の意思や」
「外人にしたら、ええ迷惑やな」
「違う、あくまでも女をはべらせている奴だけを狙うんや」
「女にこだわるなぁ」
「大和撫子を異人達に持って行かれてええんか!?」
「そら、気に食わんけど」
「そやろ?」
「でもなぁ」
「なあ、やろうぜ!異人狩り!!」
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