41 天災
『ボォオオオオオオオオオオオッッッ!!!』
「あああああああ!!!」
走って、止まって、耐えて。
また走って、止まって、耐えて。
その繰り返しで、玄無との距離を詰めていく。
向こうも上陸のために、一歩一歩の歩幅が尋常じゃない足を動かして、ズシンズシンと凄まじい足音を立てて近づいてくるので、距離は確実に縮まっていた。
当然、近づくほどにブレスは強烈になる。
それをどうにか耐えて、耐えて、耐えて。
そして、ようやく俺達は辿り着いた。
玄無をミーシャの射程距離に捉えられる位置まで。
「やれ! ミーシャ!!」
「『
ミーシャの広域火炎放射が玄無に直撃した。
あの巨体だ。
当たらない方がおかしい。
彼女の炎は、玄無の頭をすっぽりと覆うように燃え盛り……。
「……ねぇ、先輩。あれ効いてるように見える?」
「……………………多分」
ミーシャの炎は、確かに玄無にダメージを与えた。
顔の皮膚が多少焼けただれている。
……だが、それだけだ。
玄無は鬱陶しそうにこっちを見るだけで、大して堪えてる様子はない。
HP換算だと、1%も削れてないかもしれない。
「それでもダメージはダメージだ! 撃ち続けろ! どうせ私達にお前の魔法以外の有効打はない!」
「わかってるわよ、こんちきしょー!! 『焼けろ、焼けろ、焼けろ! 熱を孕んで燃え上がれ!』」
「ラウン!
「は、はい!」
二人が慌ただしく動き始める。
俺もボーッとしてる暇はない。
守りは俺の仕事だ。
絶対に守りきる!!
「では、私も役に立たせてもらうとしよう!」
「バロンさん!?」
「何を……?」
バロンが俺の後ろから大ジャンプで飛び出した。
そして、瞬時に氷の足場を作って、跳ね回るように玄無に接近。
焼けた顔面に氷の斬撃を叩き込んだ。
「『
直撃。
というか、玄無は避けもしない。
あの鈍重そうな体じゃ避けられもしないだろうが。
で、肝心のダメージはというと……。
「おお! 微妙に効いているぞ!」
「本当に微妙すぎて喜べないがね!?」
いやいや、かすり傷とはいえ、あの化け物に目に見える傷をつけられるだけ凄い。
もしかして、ミーシャの炎の熱と、低温の氷の斬撃による極端な温度差破壊攻撃か?
あれって金属とかに対して有効なイメージだが、玄無みたいな化け物生物にも効くんだろうか?
いや、実際効いてるように見えるんだから、細かい理屈はどうでもいいか。
『…………』
玄無がより一層イラ立ったような雰囲気を醸し出す。
そして、空中のバロンに向けてブレスを放った。
しかし、バロンは氷の足場を蹴りつけて、ブレスの攻撃範囲から逃れる。
目と鼻の先まで近づいたことで、顔の後ろ側へ飛び跳ねての回避が可能となっていた。
「紳士流・ダンシングエスケープゥゥゥゥッッ!!」
なんか叫んでるが、あれは多分スキル名とかじゃない。
ついでに、紳士流ってわりに優雅さの欠片もない必死な動きだ。
それでも生き残ってくれてるんだから問題ない。
「ミーシャ!!」
「『
玄無がバロンに気を取られたところで、再びミーシャの火炎が襲う。
ミーシャは肩で息をし始め、ラウンがマジックポーションとスタミナポーションを差し出す。
バロンは炎が収まったタイミングで、顔の後ろから強襲しようとして……。
「うおっ!?」
尻尾の代わりに生えてる三匹の蛇に狙われた。
首が回らない死角は、あの蛇がカバーするってわけか。
これもターン制のゲームじゃわからない、本物を相手にする感覚だ。
「バロン殿! 一旦戻れ!」
「ぬぅ……! 仕方あるまい!」
バロンが蛇の追跡を振り切り、俺達の方へ落下しながら帰ってくる。
蛇は長さ的に、甲羅の上とか顔の側面をカバーするのが限界で、顔の前に出れば追ってこれない。
だが、そうなると当然、玄無本体のブレスが届くようになってしまう。
『!!!』
俺の後ろまで退避したバロンを狙って、ブレスが放たれる。
「『
「待て! これは私が防ぐ!」
迎撃しようとしたミーシャを止め、俺は単独でブレスを受けた。
今の俺達は玄無にかなり接近し、奴は顔を下に向けてブレスを撃っている。
前からだと支える力が足りなかったが、上からなら地面を支えに受け切れる!
ぬぉおおおお! 俺は最強の傘だぁああああ!
「おおおおおおおおおお!!!」
俺は『女』騎士にあるまじき雄叫びを上げ、女子力を犠牲に化け物のブレスを一人で防ぎ切った。
「反撃だ!!」
「『
そして、温存していたミーシャの魔法が炸裂。
玄無の顔を炎上させる。
その動きを俺達は繰り返した。
俺が防ぎ、ミーシャが攻め、バロンも攻め、ラウンが補給物資で支える。
自分達のことながら大健闘したと思う。
それなり以上のダメージを与えたという自信がある。
HP換算で20〜30%は削れたんじゃないかと思う。
時間だって大いに稼いだ。
生き残りが逃げられるだけの充分な時間を。
けれど…………それが精一杯だった。
「ハァ……ハァ……くっ、そぉ……!」
誰よりも力を振り絞り、限界以上に魔法を使い続けたミーシャが倒れる。
怪我は無い。
奴の攻撃は全て防いだ。
それでも体力と魔力が限界に達し、ポーションじゃどうにもならないくらい消耗し尽くして、ミーシャは倒れてしまった。
そして、ミーシャが脱落してしまえば、俺達にできることはない。
バロンの攻撃は単独じゃ虫刺され程度にしかならず、ラウンはサポートとしては滅茶苦茶優秀だが、あの化け物に対して有効な攻撃手段は持っていない。
俺は特攻してゾンビアタックすれば多少は有効打を与えられたかもしれないが、倒れたミーシャや仲間達を置いて突撃なんかできるわけがない。
よしんばやったとしても、やはり倒すまでは無理だっただろう。
だから、これが今の俺達の限界だった。
「ぐっ……!」
悔しさに拳を握りしめる。
俺とユリア、双方の感覚が同じだけの悔しさを感じていた。
玄無は俺達からの攻撃が無くなった後、しばらく攻撃をし続けたが、それを全て俺が防いだ結果、もう相手するのがめんどくさいとばかりに俺達を無視して進軍した。
それを止める力は、俺達には残されていなかった。
町を壊され、多くの人々を殺され。
それを成した相手を、倒さなけばならない奴を仕留める手段が無く、みすみす見逃してしまった。
あまりに無力。
この日、俺は敗北を味わった。
ユリアだけのものではない、俺自身が噛みしめるべき敗北を。
「ッ……!」
去っていく巨大な玄無の後ろ姿を、俺は俺自身の殺意をもって睨みつけ続けた。
いつか必ず仕留めてやる。
そう固く心に誓いながら。
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