第11話
(せめてユメカとルーシアだけでも逃げて)
セイガが大声をあげようとしたその時。
大百足は劫火に包まれ一瞬で消え去ったのだった。
「詰めが甘かったなぁそこの戦士くん、ムカデは1匹見たらもう一匹いるもんだぜぃ」
声がした。3人がその方向を見上げてみると、大樹の横に伸びた枝の上に一人の女性らしき人が座っていた、もしかしたら3人、というか戦ったのは主にセイガだが…の戦闘をずっと見ていたのかもしれない。
「よっと」
女性は軽い調子で地面に降りた、高さは15mほどあったが音もなくふわりと降り立ったのだ。
背丈は170cm程と長身だったが、それ以上にその存在感は大きく思えた。
黒いワンピースを纏い、燃える木をバックに仁王立ちするその姿はとてもエネルギッシュな印象だった。
地面につくほど長く、真っすぐな朱色の髪は炎を映した河のようであり、黒く美しい瞳は3人を値踏みするように捉えていた。
「ありがとうございました、俺の名は聖河・ラムルといいます。良かったらあなたの名前を教えてくれませんか?」
最初ににセイガが感謝の意を表した、そしてその頃ようやくユメカに支えられていたルーシアが目覚めた。
「ふにゅ~…あ、ユメカさまおはようございます…あれ?あなたさまは?」
そしてセイガと同じく女性の名を尋ねたのだった。
「ふふっ、やはりオモシロイなお前ら。ホムラの名前は『ホムラ』だ。よろしくな♪」
ホムラが屈託なく笑った。
「本当にありがとうございました、私は沢渡夢叶、それから」
「ルーシアです…ホムラさま、セイガさま、ユメカさま…わたし気をうしなってしまってごめんなさい…」
ようやくルーシアは立ち上がり3人に頭を下げた。
「えへっ、誰にでも苦手なものはあるから仕方ないよ、私の場合だと…ってそれは言わないどこう、危ない危ない」
場を明るくしようとユメカは軽い調子でそう繋げてルーシアの肩をあげてポンポンと叩いた。
「ああ、ルーシアは本当にずっと頑張っていた。感謝こそすれ責めるようなことは何もないよ」
セイガもかなりダメージが残っていたがそれを気取られないよう元気な姿を見せた。
「ところで、はいコレ。戦利品」
ホムラが地面に落ちていた赤くて長い物をセイガに手渡した。
「ひゃ」
ルーシアが少し後ずさる。
「『ムカデの足』…これもドロップアイテムですね、ありがとう」
しげしげとみつめてみる、先程まであんなに激闘を繰り広げていたのにモンスターは消滅してこれだけ残るなんて何だか不思議な気分だった。
「モンスターっておかしなものですね、こんな風にアイテムを残してまるで最初からいなかったかのように消えてしまうのですから」
セイガは少し寂しい想いがよぎっていた。
「それでも存在自体が失われたわけじゃあないんだぜ?」
ホムラがにやりと笑った、なんだか子供のように無邪気な笑みだった。
「欠片さえ残っていれば、ソレは無くなってない…ま、それについては全ての人が分かるってわけじゃあないがな、ひとまず素材としては使えるんだからありがたく貰っときな」
気付けば燃える木々に照らされて、夜の空は星が光り瞬いていた。
そろそろ帰るかここで一泊するか考えないといけない。
「ホムラさんはやはりここには探索か観光で?」
「ホムラでいいよ、ホムラはここが性に合ってるんで時々遊びに来るんだ…ココ、オモシロイだろ?」
セイガの問いにふざけた感じでホムラは答えた。
「う~ん、面白い…かなぁ? モンスターがいない所とかこの大樹の風景とかは綺麗だったけど」
ユメカとしては戦闘は無い方が良かった、せめて大きな虫も攻撃してこなければ可愛いのにと考えているようだった。
「モンスターはホムラより全然弱いからなぁ、全く遊びがいもないぜ。それよりホムラは燃えているものが好きなんだ♪ もしお前らがモンスターが嫌なら全部倒しちゃうか」
完全に把握したわけではないが、ホムラの実力なら本当にこの森のモンスターを絶滅できそうな気がした。
「面倒だからやらないけど、それにアイツらいつの間にか増えるんだよ、別に卵とか子供とか作らないくせに」
「そうなのですね、べんきょうになります」
「うふふ、なんだか変な感じ♪ それじゃあホムラさんもここで一緒にキャンプします?」
ユメカがそう提案したが、ホムラはゆっくりと首を振った。
「キャンプか☆ それも面白そうだがお前らはそろそろここから帰った方がいいんじゃないか?もう目的は達成したんだろ?」
「確かに用事はほぼ完了したので帰還できるならその方がいいな」
セイガとしてはここで冒険を終了するべきだと考えていた。
そしてルーシアは本来の目的を思い出した。
「あ、そうそう幹をもらっていかないとですね」
その後は3人でせっせと大樹の幹を採取する作業に追われた。
気付けばそれなりに時間は過ぎていて、3人はホムラが居なくなっていることを知った。
「ホムラさま…もういちどきちんとおれいをもうしあげたかったのに」
「呼んだか?」
途端、ホムラはいた。本当に瞬間移動してきたかのような登場だった。
「暇だったんでちょっくら食事してきたんだ、お前らのほうはもう帰れそうだな」
どうやら食事についてはどういうものか分からなかったが見送りに戻ってきてくれたらしい、律儀である。
「どうやって帰るんだ?」
「わたしが聖竜さまをよびだして、飛んでいきます…もうちょっとここがひろいと楽なのですけど」
少し困った様子のルーシアだった。
「ルーシアは体力とか大丈夫?」
「はい、すこしやすんだおかげで、すっかりげんきです♪」
少し元気な様子のルーシアだった。
「ふ~ん、じゃあもうちょっと広げてやるか」
ホムラがことも無げにそう言うと、何ということだろうか、4人の眼前の木々が消えて、滑走路のように道が開けたのだった。
「凄い…ホムラにはそんな力もあるのか」
「木が無くなっちゃったけど…コレって全部消滅したってコト!?」
「あ、お前らが出ていったら元に戻すから大丈夫♪」
「ふぇ~なんていうか、本当に何でもアリだねホムラちゃん」
ユメカが目を丸くしながら微笑んだ。
最早、ホムラの力について考えるのは放棄した風だった。
「ありがとう、これで問題なく帰ることが出来るよ、本当にホムラには感謝しかない」
「うんそうだね、私からもありがとうだよ♪ また会うコトがあったら必ずお礼をしたいけれど…何か希望はあるかな?」
「ホムラさまにわたしもおれいがしたいです」
3人がそれぞれ感謝の言葉を述べる。
「ホムラはここにいる時もあるから会いたければここで呼べばいい…お礼ならお菓子がいいな、甘いヤツならなんでもおーけーだ♪」
そんなホムラに3人は残っていたおやつをあげた、そして…
『それでは、ありがとうございました!』
聖竜に乗った3人、ホムラに大きく手を振る。
「ああ、またこいよ~♪」
大きく両手を振り返すホムラ、こうしてみると最初の印象とは違い本当に幼げで、この無邪気な姿のどこからあの強大な力が生まれるのか分からなかった。
大きく翼をはためかせ、勢いのついた聖竜が滑走路を飛び立つ、見事夜の空に軌跡を描いて聖竜は飛翔したのだった。
幾つもの星と、大地に浮かぶ住まいの光りを臨みながら聖竜は大きく風を切り進んでいる、一方、魔力で軽減されたその
そんな夜の絶景と清涼な空気の中、セイガがあらたまってふたりの方を向いていた。
「お疲れさま、大変なこともあったけれど、沢山の実りのある楽しい冒険だったと思う…ふたりとも俺に付き合ってくれて本当にありがとう」
「いえいえ~」
「セイガは修行になったし、ルーシアは目的のアイテムを手に入れたし…あれ?私は何かあったっけ?」
ふとユメカは気付いてしまった、自分だけ目的が特に無かったことを。
「まあ、でも楽しかったからいっか。もし私が欲しいアイテムとかあったら今度はふたりが手伝ってね」
「はい、勿論その時は手伝うからご安心を」
「わたしもまた行きたいです~」
ユメカは夜空を見上げる、そこは幾つかの青い月が浮かぶ星の海だ。
流れそうになるものを湛えながら、ユメカはふとあることを思い出していた。
「ルーシアとはじめて出会ったのも、夜だったよね…あの時は大雨だったけど…」
「…はい、そうですね」
ルーシアもユメカに合わせて星を眺める。
何故か、ユメカは苦しそうに見えた。
そんな静寂の中セイガは声を掛けようかどうか迷っていた。
「あのね…実は、私がこの世界に来て初めて出来た友達がルーシアだったんだ」
ユメカが独り言ちた、セイガに気を使ったのかもしれない。
「私、最初のうちは結構ひとりでいるコトが多かったの」
ユメカの横顔は少し切なげで、帰る際に解いた後ろ髪がさらさらと風に揺れていた。
「何が不安だったのか、何を憤っていたのか…今は分からないけれど、かなり当時は不安定だったんだと思う…そんな時にルーシアと会って、仲良くなって…それから少しずつこの世界に慣れていったんだよね」
「そうだったのですね、わたしもエンデルクさまとテヌートさまとだけ一緒にいたので…ユメカさまがさいしょのともだち…ですよ?」
セイガはそんなふたりを少し羨ましく思った。
「あ、今はホント全然友達とかいるし、ここの生活だって楽しいし…ああでもルーシアのコトはモチロン大事だけど…説明難しいな」
妙に焦るユメカだったが、一息ついて
「セイガはどう?この世界の生活は慣れた?」
そうセイガに尋ねた。
「先程も言いましたが、とても充実…していると思う」
両腕を組み少し考えながら、セイガはそう言った。
「おふたりをはじめ、とても善い人に出会え、助けられたし、自分が成したいことがおぼろげですが分かった気がしてる…ただ、同性の友達はまだいないというか…ああでも上野下野さんには本とかげぃむ?とかを貸してもらったり話を聞かせてもらったりしてますね」
「へぇ~セイガはゲームなんて知らなかったでしょ?」
「はい、てれびげぃむをこの前楽多堂に一人で来訪した際に教わりました、凄くびっくりしたけど楽しかった」
どうやらルーシアはゲームが何なのか分からないらしく一人小首を傾げていた。
「私も最近知ったのだけどゲームっていいよね♪」
(まあ私の好きなジャンルはセイガには薦められないけれど)
ユメカはそんな気持ちを隠しながら
「早くこちらでも気の合う友達が出来るといいね…ああ、モチロン私達はもう友達だかんね♪」
照れながら指差しそう言った。
「ありがとう、そう言う意味ではおふたりが俺の初めての友達だ」
「ようやく敬語も取れてきたしね」
ユメカがからかうようにそう付け足した。
「ああ、気付いてましたか。まだ敬語になることも多いのだけど、出来ればおふたりとは気兼ねなく話したいと思っています…あ」
ユメカとルーシアはくすくす笑った。
「うふふっ…うん、気持ちはちゃんと伝わったからセイガが好きなようにするといいよ」
「セイガさまのそういう真面目なところはすてきだとおもいます~それから出来ればエンデルクさまやテヌートさまとも仲良くしてくださるとうれしいです♪」
セイガは恥ずかし気に頭を掻いた。
「エンデルク殿達とは一度きちんと話をしてみたいな」
「はい、最初はとまどうかもしれないですがおふたりとも立派なかたですよ~わたしのおすみつきです」
「エンデルクは非常に尊大だし、テヌートは人を化かす様なコトばかり言うけどね」
「ユメカさま~」
茶化して説明するユメカをルーシアがぽかぽか叩いた、勿論ダメージは皆無である。
「ほら、学園の明かりが見えてきた! もうすぐ到着だね」
ユメカが手を伸ばした先、広大な学園が発する幾重もの光と港町の温かな灯が3人を迎えていた。
「帰って…きたんだ」
「ぼうけんのおわりですね」
セイガは得も言われぬ想いが溢れていた、はじめての友達、はじめての冒険、そしてはじめての…
「セイガ、おつかれさま♪」
「はい、本当に…楽しかったですっ」
そうして、3人での初めての冒険は終わったのだった。
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