25・プレゼントを選ぼう

 朝からいろいろあったけれど、今回の本来の目的は紗良の誕生日プレゼントを買いに行くことだ。すでに随分と体力を使ったが、予定より遅くなった朝食を食べた後、ちゃんと準備をして出かけた。


「プレゼント、何か欲しいものは思いついた?」

「うーん、なんとなくは……かな? 一緒にいろいろ回ってからって感じだけど」


 考えといてね、と伝えておいたプレゼントについて訊ねれば、何やらぼんやりとした答えが返ってきた。まあ、ショップを回るのは予定通りだし、全然問題ないけれど。


「じゃあ、気になるものがあれば教えてね。遠慮はなしよ?」

「はーい」


 前にも一度来たショッピングモールで、まずは一階にある雑貨の大型店から見て回る。一階の半分以上を利用した広い店内には、文房具や生活小物、化粧品まで幅広く揃えているから、もしかしたらここですぐに欲しいものが見つかるかもしれない。


「あ、これ可愛い」


 早速、紗良が手に取ったのは、きれいなエメラルドグリーンのマグカップ。細かいエンボス模様の入った北欧風のもので、大きさも形も丁度良くて使いやすそうだ。

 スウェーデンの血も流れている彼女は、やはりこういったデザインを好むのだろうか。部屋ではあまり見ないけど。


「紗良って緑色好きなの?」


 ベッドやカーテンも緑系統のものだったし、初めてのお出かけでもミントグリーンのシャツを着ていた。部屋で見る小物も、さりげなく緑のものが多い。


「うん、好き。詩織さんは?」

「私は白とか水色とか、淡い色が好きよ」


 例えばこういうの、と隣に置いてある白に近いくらい薄い水色の同デザインのマグカップを指すと、へぇと相槌を打つ。


「気に入ったなら、これにする?」

「うーん、これもいいけど、もう少し探してからにしていい?」

「もちろん、いろいろ見て回りましょう」


 マグカップは候補の一つにして、その後も私達はあちこち見て回った。

 キッチン用品、スマホケース、パスケース、文房具、ハンドタオル。そのどれもが可愛かったし目を輝かせていたが、どうやら決め手にかけるらしく購入には至らなかった。


「ごめんね、もう少しだけ付き合ってもらっていい?」

「いいわよ。っていうか、今日はそのために来たんだから、とことん探しましょ」

「ありがとう。……あっ、あそこも見ていい?」


 次に紗良が指したのはヘアアクセサリーのショップ。所狭しと商品が並べてあるその店内で、紗良が足を止めたのは、シュシュのコーナーだった。


「これ可愛い」


 そう言って、棚に並んでたひとつを手に取る。

 紗良が手にしたのは、パステルカラーを三色組み合わせたふんわりとしたシュシュだ。色の組み合わせは何通りかあり、彼女が今手にしているものには淡い緑色も含まれていた。


「いいわね、紗良に似合いそう。あ、こっちの色も可愛い」


隣に置いていた、水色やラベンダー色も含まれているシュシュを手に取ってみせれば、「本当だ」と紗良が同意する。


「詩織さんっていつもハーフアップにしてるけど、シュシュ使ったりすることあるの?」

「あるわよ。普段はこの髪型だけど、体育の時はちゃんとまとめるし、夏にはサイドに流したりもするし」

「そうなんだ。その髪型しか見たことなかったから、こだわりがあるのかなって思ってた」

「ないわよー、そんなの」


 そういえば、記憶が戻ってからもずっとこの髪型にしてたけど、別に変えてもいいのよね。何も考えず、キャラの設定通りの髪型のままにしてたけど。自分でも似合ってると思うし、変える理由もないからこのままにしてた。

 たまには可愛いシュシュでもつけて、イメチェンしてみてもいいかもしれない。


「シュシュ、買おうかしら」

「えっ!」

「えっ?」


 ポツリとこぼした言葉に、なぜか紗良が食いついた。


「詩織さん、それ気に入ったの?」

「え、ええ。たまにはこういうのもいいかなって」

「じゃ、じゃあ!」


 興奮気味に頬を染めて、手に持っていた方のシュシュを差し出し、


「誕生日プレゼント、これ、お揃いで……だめ、かな?」


と、だんだんフェードアウトして消え入りそうになる声で紗良が言った。


「友達とお揃いって、ちょっと憧れてて……でも、お願いして無理やりするのも何か違うし、これなら詩織さんも気に入ったみたいだし、その……私とお揃いとか、いやかな?」


 か…………かっっわいいっ………………!!!

 やばい、この子。可愛さに浄化されて、今ので百回は萌え死んで転生してきたかもしれない。私の推し、尊みが過ぎる!!

 なんかもう、垂れた犬耳みたいなの見えてくるし、お揃いに憧れてるとか……可愛すぎか! 可愛すぎだ!!


「いやなわけないじゃない、私も嬉しいわ。色はそれでいい?」

「あっ、うん!」


 ぱぁっ、と輝かんばかりの笑顔に、また浄化されそうになる。

 多分、中学では女友達に恵まれなかったから、お揃いとか女の子同士がやるようなことに憧れがあったのだろう。そういえば、前に友達と買い物に行ったことがないとも言っていた。

 高校では友達も出来たのだし、これからそういう思い出をどんどん作って、楽しい時間を取り戻してほしいと思う。


「ねえ、もしかして今日見て回ってたのって、私の反応も見ながらだった?」

「あ、えーっと、……うん」


 やっぱりか。結構気に入ってそうなのにスルーするもんだから、おかしいと思ってたら。遠慮はなしって最初に言ってたのに……でもまあ、紗良ってこういう子よね。


「じゃあ、これ買ったら次は一階に行きましょう」

「え、なんで?」

「マグカップ買いに。あれも色違いで買いましょ。で、私のは紗良の家に置いといてもらっていい?」

「――うん!」


 少し強引だったかもしれないけど、目的だった『本気で喜んでもらえるプレゼント』を選ぶのは、きっと大成功。

 あれ? でも、ペアのマグカップって一般的に友達の部屋に置いてもらうものだっけ?


 ……ま、いっか。嬉しそうだし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る