第74話 欠陥奴隷は依頼を果たす

 血と呪毒の混ざった槍は、目玉を串刺しにしていた。

 穂先が地面に当たる感触がある。

 完全に芯を捉えているようだった。


 その途端、目玉から血が溢れ出す。

 まるで涙のようで、すぐさま勢いが強まっていく。

 水分を失った目玉はしぼんで、小さくなって乾いていった。

 それに従って胴体や触手部分も枯れ始める。


 残されたのは、ぺらぺらになった残骸のみだった。

 槍を動かして引き裂くと、煙を上げて完全に崩れてしまった。


 周囲でどよめく声があった。

 見れば戦場全域に散らばる魔物の死骸が、灰のように変質するところだった。

 風に吹かれてどこかへ消えていく。


 魔族に支配された個体は、その影響下から外れたことで消滅したようだ。

 何らかの繋がりができていたのだろう。


「あ、死体だ」


 俺は思い出したように呟いた。

 槍を捨てて屈むと、その残骸に触れる。



>スキル【復元強化】を取得

>スキル【魔性】を取得

>スキル【限界超越】を取得

>スキル【魔導波】を取得

>スキル【再生強化】を取得

>スキル【超回復】を取得

>スキル【瘴気触手】を取得

>スキル【侵蝕の眼差し】を取得

>スキル【瘴気吸収】を取得

>スキル【環境適応】を取得

>スキル【混沌魔術適性】を取得

>スキル【使役】を取得

>スキル【破滅の案内人】を取得

>スキル【英雄の天敵】を取得

>スキル【英雄殺し】を取得

>スキル【魔王の兆し】を取得



 俺の【死体漁り+】で取得できたということは、魔族は死んだということだ。

 ここから復活されるとさすがに参るが、そういった心配は必要なさそうであった。


 苦労して倒した甲斐もあって、魔族は大量のスキルを保有していた。

 死体の状態が良ければ、もっと取得できたのではないか。


 若干の悔いが残るも、手加減して勝てる相手ではなかったろう。

 正真正銘、魔族は人生最大の強敵だった。


(少なくとも上位の存在――魔王になりかけていたんだからな)


 魔王とは魔族を統べる化け物の総称である。

 確かにあの強さなら納得だった。

 もっとも、理性が飛んでいたので支配能力はなかったろう。

 だから完全な魔王ではなかったのだと思う。


(……死んだ敵のことなんて、どうでもいいか)


 俺は最低限のものを除いてスキルを解除した。

 全身を覆い尽くしていた鎧モドキが剥がれ落ちる。


 そこに割れた腕輪も紛れていた。

 確かステータスの隠蔽効果がある代物だ。

 ギルドマスターから譲ってもらったが、どさくさで壊れてしまったらしい。


「まあ、いいか」


 俺は冷静に呟く。


 大勢の前でこれだけのスキルを使用し、挙句の果てには魔族にとどめまで刺した。

 異常性は十分に周知されたろうし、もはや何も隠す部分がない。

 誤魔化すのも面倒だ。

 今はもう、余計なことを考えたくなかった。


「はぁ……」


 俺はその場に座り込んで、大きなため息を吐く。


 遠巻きに眺めるばかりであった兵士と冒険者達は、それを合図だとばかりに歓声を轟かせた。

 戦いの終結を悟ったようだ。

 拳を突き上げたり、近くの者と抱き合ったり、負傷者の治療に専念したりしている。


 生き残りの英雄ニアは何か言いたげだったが、口を噤んで兵士達のもとへ向かった。

 今は細かな質問をしている場合ではないと考えたらしい。

 自らの役目が他にあると気付いたようだ。


 一方、サリアがこちらにやってくるのが見えた。

 ニヤニヤ顔の彼女は、俺のそばに屈む。


「おめでとう。ルイス君なら勝てると思ったわ」


「よく言うぜ。本当のところは、どうなんだ」


「五分五分……よりちょっと悪いくらいかしら。運が良かったと思うわ」


 サリアが平然と述べたので、俺は噴き出すようにして笑った。

 全身の力を抜いて大の字に寝転ぶと、また息を吐く。


 たくさん頑張ったのだ。

 戦後の後処理くらい怠けても文句は言われないだろう。


 俺はその姿勢のままステータスを開く。

 膨大になってきたスキル欄を閲覧し、ふと目に付いたものを注視した。

 いずれも今回の戦闘中に取得したものである。


 俺はしばらく考えてからステータスを操作した。



>スキル【不倒の英雄】【血杖の英雄】【限界超越】を複合

>スキル【屍越の英雄】を取得



 直感的に弄ってみたが、めでたく英雄になったらしい。

 名称からして、死体を漁る俺にぴったりである。


 この【屍越の英雄】は、死んだ英雄のスキルを取り込んでいくそうだ。

 そのたびに能力が増強されるという。

 効果の説明から推測するに、名称は固定なのだろう。

 新たな英雄関連のスキルを放り込んでも【屍越の英雄】のままなのだと思われた。


 こいつを成長させていけば、絶大な力を発揮する能力になるに違いない。

 今後がますます楽しみである。


 こうして俺は、魔族の討伐を果たしたのであった。

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