第73話 欠陥奴隷は終焉を与える
「さすがルイス君ね。あなた、やっぱり英雄に見ているわ」
サリアはよく通る声で言う。
澄ました調子なのは相変わらずだった。
その姿を見ていると、ここが本当に戦場なのか疑いたくなる。
しかし、異形の魔族は確かに存在しているし、俺の全身は甲殻と鱗と結晶と血に触手の破片に塗れていた。
サリアはいつもの変わらない口調で指示を飛ばしてきた。
「今なら隙だらけよ。ちゃっちゃと倒しちゃって」
「……助かる」
「気にしないで。これくらい簡単なのよ」
感謝の言葉に対し、サリアは得意そうに述べる。
簡単なのなら、もっと早く参戦してほしかったのだが。
もし彼女がいれば、苦戦することはなかったのではないか。
他の二人の英雄も死なずに済んだのかもしれない。
そんな想像をしながらサリアを睨もうとして、俺は気付く。
戦場全域ににいたはずの魔物達が殲滅されていた。
兵士や冒険者達は怪我人の処置に追われている。
こちらに参戦したがっていそうな者もいるが、さすがに怖気づいているようだった。
消極的だったサリアは、いつの間にか配下の魔物達を片付けていたらしい。
何かと戦いたがらない彼女だが、決して怠けていたわけではない、と思う。
少なくとも結果が物語っていた。
(まあ、細かいことは考えてなくていいか)
俺は改めて気を引き締めると、かなりの疲労を無視して首を振る。
その時、魔族が咆哮を上げた。
甲高い声がして触手が震えると、素早く伸びようとする。
ところが、強烈な圧力を受けて全体が一瞬で潰れた。
地面に深々と陥没して、まともに動けなくなっている。
びちびちと音を立てて触手が裂けていた。
重みに耐え切れていないのだろう。
「逃がさないわよ」
サリアの意地悪そうな声がした。
彼女は遠慮なく術を行使している。
進化を遂げた魔族すら、魔女の力には敵わないようだった。
(今のうちにやるしかないな)
俺は適度な長さまで骨刃を伸ばすと、途中で折って握り込んだ。
さらに【血液操作】で呪毒を混ぜた自分の血を集めて、先端を鋭利な甲殻で尖らせる。
出来上がったのは、骨刃を軸とした赤い槍であった。
「よし」
槍を構えた俺は走り出す。
サリアの術を受け続ける魔族は不気味に蠢いていた。
数十回の圧縮攻撃で瀕死状態に陥っている。
破けた肉は跳ねるばかりで結合できていない。
体液も漏れ出すばかりで、形を失ってスライムのようになっている。
ついに再生能力の限界が訪れたのだ。
潰されても生きている生命力には驚かされるが、有効な反撃はできないようだった。
魔族の中央部では目玉が凹んでいた。
そこに魔力が濃縮され、全身や触手の末端へと流し込んでいる。
弱り切ったことでその構造が分かりやすくなっていた。
(あれが弱点か)
瞬時に理解した俺は跳び上がり、緩やかな落下を始める。
両手で持った槍を掲げて、穂先に炎と雷を発生させた。
落下地点には魔族が待っている。
魔族は触手で食い止めようとした。
ところが、漂ってきた霧の刃が妨害する。
ニアが得意の能力で支援してくれているのだ。
短時間ながらも共闘したことで、彼女の動きは信頼していた。
「さっさと、くたばりやがれェッ!」
喉が張り裂けんばかりの絶叫。
俺は刻まれた触手の合間を落ちる。
そして、渾身の一撃を目玉に叩き込んだ。
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