第68話 欠陥奴隷は魔族を追い詰める

「ギィ……ァガ!?」


 魔族が痙攣し、その右肩が隆起の末に爆発した。

 蠢く鮮血が噴き上がり、先端が伸び上がって硬質化する。

 それが魔族の顔面目がけて動いて突き刺さった。


「ゴアアアァッ!」


 魔族が咆哮し、拳を振り上げた。

 その拳から白煙が立ち昇り、指の鱗が剥げて腐り落ちる。

 潰れた片目がせり出して、地面に転がり落ちた。


 巨躯を支える両脚も同じように白煙を洩らしていた。

 表面が腐ってずり落ちて、筋肉や骨が剥き出しとなる。

 その筋肉と骨も脆くなっているようだ。

 前のめりになった魔族は、片腕を使って倒れないようにしている。


「ふぅ……」


 俺は両腕を下ろして、ふと鼻に手をやる。

 真っ赤な血が流れ出していた。

 スキルの乱用で無理をしすぎたようだ。


 ただ、その成果は十分にあったと言える。

 魔族は大きく弱体化していた。

 呪毒に加えて、血液の操作が効いたのだろう。


 症状は時間経過でさらに悪化するに違いない。

 衰弱している上、意識が朦朧としてくるはずだった。


「クソ、野郎、がぁ……!」


 魔族が顔を振って意識を保ち、指先に雷撃を溜めた。

 しかしその瞬間、手首が破裂して弾け飛ぶ。

 雷撃と衝撃波が暴発したのだ。

 魔力の操作が覚束ないせいで自爆したのだろう。


(これではっきりと分かったな)


 あの魔族は、呪いや毒が弱点なのだ。

 全身を覆う鱗は凄まじい物理防御力を誇り、驚異的な身体能力も有している。

 真正面からの戦いでは、ほぼ無敵に近かった。


 ところが、一方で搦め手に対応する術を持たないのだ。

 鱗の内側を攻められると、あのように特性を活かし切れなくなってしまう。

 結果として大幅に力を削られることになっていた。

 現在は強化前の状態よりも弱くなっているに違いない。


 俺のスキルが凶悪すぎるだけかもしれないが、どちらにしても良かった。

 こちらの戦い方が通用するということが重要だった。

 奇襲を受けた魔族は、明らかな不利に陥っている。


 身体能力の差が埋まり、魔術も使えないようにした。

 時間をかけるほど俺が有利になっていく。

 ほとんど理想と言える戦況だろう。


 正直、ここまで順調に進むとは思わなかった。

 これ以上に優位な状況はないはずだ。

 文句なんてあるはずもない。


(絶対に逃がさない。ここで必ず仕留めきる)


 勝利を予感した俺は、万全の形へとスキルを調整していく。

 自らの魔力量を確かめながら慎重に選定する。


「畜生が! こんなところで、負けて、たまるかァッ!!」


 瀕死の魔族が片手を握り締めて叫ぶ。

 すると筋肉が肥大化し、全身が二回りほどの大きさまで膨れ上がった。

 その分だけ出血が酷くなり、呪毒の侵蝕も速まったようだが、当の魔族は気にしていない。

 短期決戦で俺を始末すると決めたらしい。

 紫色の炎を纏いながら、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


「――上等だ。やってやる」


 向こうも命を懸けて本気になった。

 生半可な気概では負けることになるだろう。

 ここで逆転されるのは絶対に嫌だ。

 こうなったら徹底的に叩き潰してやる。

 俺は、英雄を超えるのだ。

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