第66話 欠陥奴隷は痛打を放つ

 魔族の片手の指が俺に向いた。

 そこに魔力が集束していく。


(雷撃が、来る!)


 俺は腰を落として息を呑む。

 ダンの防御でも即死だったのだから、躱すしかない。


 使えそうなスキルを惜しまず有効化した俺は、雷撃が発射される瞬間を捉える。

 真横に跳ぶことで紙一重で避ける――いや、避けようとした。


「……っ」


 右肩に穴が開く。

 放たれた雷撃に貫かれたのだ。


 顔を顰めた俺は唇を噛みながら耐える。

 もし【苦痛耐性】がなければ、痛みで動けなくなっていただろう。


(ここで死んでたまるかッ!)


 着地した俺は、盾を捨てて突進を開始する。

 肩の穴は早くも再生し始めていた。

 放っておいていいだろう。

 立ち止まるほうが遥かに問題である。


(真正面からやれば死ぬ。卑怯でも何でもいいんだ)


 俺は昂ぶる心を落ち着ける。

 魔族を視界に捉えながらも、意識は薄く伸ばして、ほどよい具合に脱力した。

 そして、軽くなった身体を動かす。


「あの野郎、どこへ行きやがった!?」


 魔族が驚愕して辺りを見回し始める。

 真正面から迫る俺に気付いていない。

 完全にこちらを見失っているようだった。


 その間に俺は魔族の死角に回り込み、放置されたウィズの死体に触れる。



>スキル【血液操作】を取得

>スキル【結界魔術適性】を取得

>スキル【魔術強化】を取得

>スキル【魔力増幅】を取得

>スキル【鮮血女神の呪護】を取得

>スキル【魔力吸収】を取得

>スキル【血杖の英雄】を取得



 求めていた能力が手に入ったが、詳しく確かめる余裕はない。

 俺は魔族の側面から近付いていく。


 まずは【骨鉄刃】で両手の前腕から刃を生やした。

 金属光沢のある鋭利な刃だ。


 皮膚を突き破って出てきた骨の刃は、俺の血で濡れていた。

 そこに【溶解液】と【呪毒の嗜み】を加えてさらに強化する。

 刃が溶け始めているので、早く使わねばならない。


(こいつのどこに刺せばいい?)


 接近するまでの僅かな間に、俺は高速で思考を巡らせる。


 魔族は全身に魔力を帯びていた。

 鱗が鎧のような役割を果たしているのだ。

 観察しているうちに、その魔力に不自然な偏りがあることが判明する。

 どうやら消耗しているようだ。


(霧の刃は少しは効いていたのか)


 ニアの猛攻は、ほんの僅かながら魔族を削っていたのである。

 魔力が集中する箇所は頭や首、腹や胸などだった。

 ようするにそこが急所なのだろう。


(素直に急所を狙いたいが、弾かれる恐れが高いな)


 素早く判断した俺は【乾坤一擲】【滅風突き】を発動しつつ、魔族を間合いに収める。

 魔族は未だに気付いていないようだった。

 なぜかニアに向かって怒鳴って俺の行方を訊こうとしている。


 そんな間抜けな姿を見つつ、俺は呪毒に塗れた骨の刃を突き出した。

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