第58話 欠陥奴隷は戦場を駆ける

 周囲を確認しながら俺は考える。

 ここですべきことは、魔物に立ち向かうのではない。

 死体に触れてスキルを取得することだ。


 自らを強化して生存率を上げて、とにかく死なないようにする。

 英雄が魔族を倒すまで耐えれば上々だ。

 とにかくその展開を目指し続ければいい。


 意気込む俺をよそに、近くで佇むサリアは退屈そうだった。

 戦わないのかと訊けば、「まだ出番じゃないから頑張ってきて」と言われてしまった。

 サリアからすると、これも俺の鍛錬になるらしい。

 この状況で動揺せずにいられるのはさすがと思うが、さすがに悠長すぎるのではないか。


 しかし、俺にサリアの説得はできない。

 彼女を頼るのは駄目だ。

 万が一にもサリアが死ぬことはないのだから、放置して戦うのが賢明だろう。

 その点だけは安心できる。


 さっそく俺は近くの死体に駆け寄った。

 冒険者の死体で、顔面を叩き割られている。

 その手から鋼鉄製の斧を貰いつつ、スキルも漁ることにした。


>スキル【力持ち】を取得

>スキル【斧術】を取得



 内容も確かめず、俺は屈んで移動を続けた。

 注意深く視線を巡らせて、辺りに転がる死体を次々と触っていく。

 倒された魔物の死体も同様に調べていった。

 そうして能力を増やしていく。



>スキル【先制攻撃】を取得

>スキル【受け流し】を取得

>スキル【捕食】を取得

>スキル【噛み砕き】を取得

>スキル【炎角】を取得

>スキル【鱗肌】を取得

>スキル【暴走】を取得

>スキル【獰猛】を取得



 悪くない成果に喜んでいると、蛇の魔物が噛み付いてきた。

 その牙が腕に牙が食い込む。


「くっ」


 俺は蛇を掴んで引っ張って無理やり外した。

 そして頭部を踏み潰す。


 噛まれた腕を確認すると、赤い痕ができていた。

 それもすぐに再生して消える。

 おそらく毒が打ち込まれたので【毒耐性】がなければ危なかったろう。

 小さく安堵の息を洩らしつつ、俺はスキルを奪う。



>スキル【毒牙】を取得

>スキル【気配遮断】を取得



 そこそこスキルが増えた。

 いずれも役に立つものばかりである。

 戦場にはまだまだ死体があるので、消耗を避けながら漁りたい。


 引き続き【朧影の暗殺者】で隠密行動を取るのが一番だろう。

 俺一人が積極的に戦わなくても、大勢に影響はない。

 最悪、この場から逃げ出してもいい。


 俺にとっては死体から取れるスキルが最大の収穫なのだ。

 気配を殺せば、強引に戦線離脱できる。

 なるべく最後まで戦い切りたい。

 逃走も視野に入れつつ、俺は戦場の死体を探す。

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