第42話 欠陥奴隷は因縁をつけられる

「どこで何をしようと勝手だろう」


「――あ? まさか俺らに言い返してきたのか?」


 俺が反論すると、三人が怒りを露わに近付いてくる。

 そのうち一人が胸倉を掴んで持ち上げてきた。

 殺意の混ざった目が睨み付けてくる。


「生意気言ってんじゃねぇよ、クソ雑魚が。何を調子に乗ってやがるんだ?」


「放せよ」


「おいおい、本当にどうしちまったんだこいつ!」


 別の一人が手を叩いて笑う。

 気楽そうな調子だが、目には明確な苛立ちを抱えている。

 俺の言動がよほど気に入らないようだった。


 しかし、喧嘩を吹っかけてきたのは三人だ。

 それに応じたら機嫌と損ねるとは、何とも身勝手である。

 欠陥奴隷が反論するのは予想外だったのだろう。

 簡単な話、とんでもなく舐められているのだ。

 何をしても問題ない雑魚として認識されている。


 俺は周囲に視線を巡らせる。

 掲示板を見ていた冒険者は、さりげなく距離を取っていた。

 酒場の冒険者達は、面白そうにこちらを眺めている。

 ちょうどいい暇潰しの光景とでも思っているのかもしれない。

 中には明確に囃し立てるような発言をする者もいた。

 ギルドの職員は見て見ぬふりを決め込んでいる。


(誰も止めようとはしない、か)


 これくらいは個人で解決する範疇なのだろう。

 冒険者は荒くれ者が多い。

 小さな問題には、他者もわざわざ介入しないに違いない。

 少なくとも争いを止める親切な者は、この場にはいないようだった。


 別にそれについては構わない。

 元から助けなんて期待していなかった。

 貧民街で暮らしていれば嫌でも分かる。

 最終的に信じられるのは己だけなのだから。


 胸倉を掴む男は俺を下ろすと、肩を引っ張ってギルドの出入り口へ歩き始めた。

 相当な力が込められており、有無を言わせない雰囲気があった。

 他の二人もそれに追従する。


「おい、ルイス。付いてこい。お前と大事な話がしたい」


「…………」


 俺は黙って歩くことで従う姿勢を見せた。

 別に逆らうことはできたが、あえて乗っておこうと思ったのだ。

 ギルド内で問題を起こすと面倒になるかもしれない。

 それなら外で解決した方がいいと考えたのである。


 連れられた先は路地裏だった。

 昼間でも暗い場所で、区画的には貧民街ではない。

 しかし、治安の悪さでは大差ないだろう。


 こういった場所では、誰が何をしていようが黙認される。

 衛兵も迂闊に踏み入らない悪所であった。

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