第37話 欠陥奴隷は試験結果を聞く

 ゴーレムを倒した俺達は街への帰還を目指す。

 とは言え、特筆するようなことは起きない。

 帰り道では一度も魔物と遭遇しなかったのだ。


 サリアが魔除けの術と結界を行使したのである。

 たぶん俺の疲れを考慮したのだろう。

 これ以上、無理をして戦わせるべきではないと判断したらしい。


 理由については本人の口から聞いていないが、おそらくそういうことなのだと思う。

 サリアは何かと俺を気遣う。

 奔放な性格に見えるし、平然と人体実験を繰り返す極悪人の魔女だ。


 しかし、そんな彼女にも人間的な優しさがあった。

 俺のどこを見てその優しさを向けているのかは知らないが、今は甘んじて受け入れようと思う。


 単身でゴーレムを倒せるようになったものの、今の俺ではきっとサリアには敵わない。

 全力で挑んだとしても足元にも及ばないだろう。


 サリアと協力できるうちは着実に実力を付けるのだ。

 万が一、敵対することになっても大丈夫なようにしておきたい。


 俺は英雄を目指している。

 魔女くらい倒せるようになりたいものだった。


 様々な反省点や目標を考えているうちに街に到着する。

 辺りは明け方頃といった具合だった。

 仕事を始める職人や、酒で泥酔した冒険者や傭兵が通りを徘徊している時間帯だろう。


 門前では、サリアを見た門番がぎょっとした顔をしていた。

 俺達のことを検査しようとはせず、ただ目を逸らして突っ立っている。

 そんな彼らにサリアはわざと話しかけて困らせていた。

 からかいの対象となった門番に同情しつつ、俺は街中へ進む。


 本当はすぐにでも眠りたかったが、まずは冒険者ギルドへ行かねばならない。

 成果報告はすぐに行う方がいいだろう。


 この時間帯でもギルドは営業していた。

 俺達を見た職員は、すぐさまギルドマスターの部屋で通してくれる。

 ノックも無しに入室したサリアは、小脇に抱えた果実をギルドマスターに押し付けた。


「はい、どうぞ。約束の果実を持ってきたわよ」


「ご苦労。随分と早かったな」


「ルイス君が頑張ったのよ。あなたも見てたでしょ?」


 意見を求められたギルドマスターは頷く。


「正直、予想以上だった。君にはスキルを使いこなす才能がある」


「はぁ……」


 俺にはよく分からないが、それなりに高い評価を貰ったらしい。

 スキルを使いこなす才能とは自覚がない。

 他人がどうやっているのか知らないし、つい最近まで【死体漁り】しかなかったのだ。


 上手いか下手かで言えば、後者に分類されそうなものだが。

 俺が首を傾げていると、ギルドマスターが本題を切り出した。


「結論から言うと、君達は合格だ。この短時間で果実を無事に持ってこれた。非常に優秀と言えるだろう」


「でしょでしょ? 私達、すごく頑張ったんだから」


「ただし、そこで喜ぶのはまだ早い」


 ギルドマスターは得意げなサリアを遮ると、次に俺へと視線を向けてきた。


「冒険者に等級制度があるのは知っているかな」


「確かギルドからの信頼度を表すもの、だったか?」


「その通り。八級から一級……いや、特級まで含めると全九階級。一般的に等級が高い者ほど優れた冒険者と言えるだろう」


 ギルドマスターはそう言って二枚の羊皮紙を差し出してきた。


「君達の等級はここに記してある。試験内容を反映させた結果だ。よく確認してほしい」

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