第10話 欠陥奴隷は追従を選ぶ
衝突の勢いもそのままに、俺は激しく地面を転がる。
全身を強打しつつ、手足を伸ばして土を掻いた。
そうすることでようやく止まることができた。
「く、そ……」
あちこちが痛む。
幸いにも骨は折れていないようだった。
魔術の拘束も解けている。
自由に身体を動かせることに感謝する。
降り注ぐ雨が手や顔に降りかかった。
俺は拭いながら立ち上がる。
月明かりに照らされる雨粒は、なぜか赤かった。
すぐそばに兵士が倒れている。
首に大きさ裂け目ができて、一本のナイフが刺さっていた。
そこから鮮血が噴出し、雨のように降りかかっていたのだ。
(とりあえず、貰っておくか)
兵士に対する罪悪感はない。
同情くらいはするが、それだけだ。
不運で迂闊な者から死んでいくのは世界の常識なのだから。
俺は痛む身体を動かして、兵士の死体に触れた。
>スキル【剣術】を取得
>スキル【盾術】を取得
>スキル【一刀両断】を取得
さすが正規の兵士と言うべきか、基礎的なスキルが揃っている。
どれも使えそうな能力ばかりだった。
素直に喜びたいところだが、状況的にそれは無理だ。
「あら、本当にスキルを奪えるのね。すごいじゃない」
少し離れたところでサリアが拍手をしていた。
彼女は俺を見ながら笑顔を湛えている。
見惚れてしまいそうなほど綺麗だが、本性を知っているので恐怖しか感じられない。
俺を投げ飛ばしたのは【死体漁り+】の効果が真実か見極めるためだったらしい。
なんとも迷惑な確かめ方だが、効率的ではあった。
実際、サリアは確認に成功しているのだから、賢いという他あるまい。
喜ぶサリアを見ていると、騒然とする声がしてきた。
見れば数人の兵士がこちらに駆け付けてくる。
同僚の死か、サリアの魔術を察知したのだろう。
既に殺気立っており、戦闘態勢に入っているようだった。
(事態がどんどん悪化しているな)
俺は胃痛を覚えるが、それどころではない。
諸々の元凶が前方にいるのだ。
「別に戦ってもいいけど、今日はそういう気分じゃないのよね……」
サリアは少し困ったように呟く。
兵士の接近にも焦る様子がない。
その気になれば、何十人だろうと相手ができるのだと思う。
正確な実力は知らないが、サリアならきっと可能だ。
(俺はどうすればいい?)
もう逃走はできない。
一度目は兵士にぶつけられる程度で済んだ。
しかし、二度目はどうなるか分からない。
あっけなく殺されてしまうかもしれなかった。
兵士の足音を聞きながらも、俺はその場に棒立ちになる。
そのうちサリアが軽やかに目の前までやってくると、そっと俺の手を握ってきた。
「ついてきて。もう少しお話がしたいわ」
サリアは兵士とは反対の方角へ進み始めた。
俺は引っ張られるがままに歩く。
このまま従っていいものか迷う。
正直、かなり不安だったが、力の差を考えると絶対に逆らえない。
機嫌を損ねて殺されるのは嫌だ。
ここは黙ってついていくしかないだろう。
兵士達の怒声を聞きながら、俺達は夜の路地へ逃げ去っていった。
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