138

「太陽が、上がらないね……」


 窓を開けると、いつまでも暗い闇の中に、家々のランタンの灯りがほんのり灯っていた。


 夜の闇とは違う、夜明けのような空気の不思議な闇。


 ほんのり朝の香りがする、大晦日のような不思議な静けさの中、ジャックはエプロンの紐を結んで窓の外を静かに見つめていた。


「夜みたいだけど、みんな起きてる。少し、綺麗だね」


 それぞれの家から漏れ出た優しい光は、そこで暮らす人々の温かさを表すように、それぞれの色で灯っている。


「そうじゃな……しかし」


「バランじい?」


「ジャック、食事が終わったら城に行こう」


「え、店は?」


「今日は休みにする。それからジャック、このランタンにだけ灯りをつけて、店の灯りをすべて消してくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る