第49話 49、信貴国の関所
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1300人の娘兵士達は戦場の死体を荒野に並べた。
数えやすいように10人ずつに分けて荒野に並べた。
死者数は13962人だった。
峠に向かう山道には1000人の死体があったが娘兵士達は死体を荷車に載せて荒野に下り、死者の群れに加えた。
戦場の近くには真新しい長い墓があった。
それは最初の戦いと、その夜の夜襲で死んだ2300人余りの兵士の墓だったが、マリアは墓を掘り返すことはしなかった。
マリアは敵兵の死者の数は戦場の13962人と山道からの1000人の計14962人であることを龍興興毅に確認させた。
龍興興毅は埋葬されていた2300人余りの兵士の数を加えなかったことに感謝しつつ、「死者数は15000人であることを確認した。」とマリアに言い、マリアはそれを了承した。
福竜国はマリシナ国に150万両(1500億円)を支払うことになった。
捕虜の尋問で、侵入してきた軍は信貴国の先にある豪雷国、大友国、吉祥国の連合軍であることが分かった。
それらの国は信貴国の属国になっており、今回の侵攻は宗主国である信貴国の命令で行っていたらしい。
信貴国は他国を大軍で囲み、相手に降伏を促し、属国にすることで勢力を拡張して来たのだった。
マリアは死体をそのままにし、軍団を福竜国の船着場に向かわせた。
軍勢を福竜の城に向けることはしなかった。
脅しているようにも見えるし、殿様に会えばお金を請求しなければならなかったし、100万両以上の金をすぐに用意できるものでもなかったからだ。
マリシナ軍1300人は27艘の筏船に分乗し十数回往復して隠れ村に帰って行った。
多数の荷車や軍馬や馬車馬などの戦利品を運ばなければならなかったからだ。
数日後、福竜月影殿様から会いたいという連絡がマリシナ廻船の待合室に入った。
マリアはマリシナ廻船の待合室で夜間に面会すると娘兵士を城に派遣して伝えさせた。
夜間は待合室には旅人はいない。
福竜月影は多数の供侍を引き連れて待合室でマリアと会った。
多数の供侍とマリシナの娘兵士達が周辺を警備し、多数の蝋燭が灯された明るい待合室で福竜月影とマリアは会った。
福竜月影殿様が最初に言った。
「マリア殿、この度は素早い対応ありがとうござった。町への進行が始まる直前だったそうだな。数日遅れていれば城下町は戦場になっていたところだった。」
「福竜国の国境の備えが良かったからだと思います。」
「龍興が申しておった。2万の大軍だったそうだな。それを1300のマリシナ軍がわずか3日間で完膚なきまでに打ち破った。投降した者は1300人の倍以上の2800人というのも驚きじゃ。これ以上戦っても殺されるだけだと思ったのだろうな。完勝だった。」
「恐れ入ります。作戦が功を奏したのだと思います。」
「敵は豪雷国と大友国と吉祥国の兵だったそうだな。隣国の信貴国が命令したと聞いた。信貴国は2万もの軍勢を属国に命令できる大国になっているということだ。」
「全滅したことを知れば怒って新たな軍勢を送ってくるのか福竜国は強いと知って侵攻を諦(あきら)めるのかになるのでしょう。情報はそろそろ伝わっているのかもしれません。」
「そうじゃな。当然事前に間者が入り込んでいて、今も福竜にいるのだろう。マリシナ軍が出発し、無傷のマリシナ軍が帰って来て、味方軍勢が福竜に進行してこなければ戦いは負けたということになる。」
「・・・とにかく、信貴国が攻め込んで来たことは明らかです。」
「・・・ありがたい。そちらに話を持って来てくれたか。」
「殿様のお望みのようでしたから。」
「うむ。福竜国はマリシナ国に150万両(1500億円)を支払うことになった。実を言うと予想以上に敵の数が多かったのだ。どんなに頑張っても50万両(500億円)が限度だ。他の国に協力を依頼したがまだ返事は来ていない。まあ急な話だから無理もないがな。・・・それで残りの100万両は信貴国から貰(もら)おうと思ったのじゃ。信貴国は金鉱があるらしく金貨を作っている。この国の金貨も全て信貴国で作られたものだ。信貴国を滅ぼせば100万両くらいは簡単に奪うことができる。・・・どうだろう。反撃する大義は我らにある。信貴国を滅ぼしてくれないか。・・・いや、滅ぼしては金が取れんな。屈服させて属国にしようと思う。マリシナ国は信貴国の3分の1を取ると言うことでどうだろうか。金鉱を含めた3分の1でいい。残りの100万両は信貴国を奪ってから支払うと言うことでどうだろうか。」
「・・・宜しゅうございます。反撃は当然の権利です。信貴城を落としましょう。しかしながら信貴城を落とすには少し時間がかかります。私は信貴国のことはまだ知りません。事前に調査しなければなりません。」
「当然だ。・・・まずマリア殿の信頼を得なければならんな。・・・50万両は7日後にこの場で渡そうと思うがそれで良いか。」
「宜しゅうございます。残りの100万両は信貴城を落としてからといたしましょう。それくらいの金は信貴城の金蔵にあるかもしれません。」
「有難い。福竜国はマリシナ廻船のおかげで繁栄しておる。国の金蔵は空になるがすぐに回復できるはずだ。それもこれもこの辺りでは戦争がないからだ。」
福竜月影殿様は安心感を抱いて城に帰って行った。
マリシナ国に滅ぼされた後の信貴国の統治形体を想像しながら帰って行った。
マリアは新たに娘兵士10人を連れて信貴国への股旅の旅に出た。
10人の娘達は渡世人に必要な丁半博打と居合い切りの訓練を十分に積んだ兵士だった。
渡世人にとって賭場でサイの目が判るほど便利なものはない。
金に困ることがない。
渡世人にとって優れた刀術ほど重宝なものはない。
相手を怯(ひる)ませることができる。
マリア達は峠を越えて長い山道街道を下って行った。
途中から水の流れる音が聞こえるようになり、沢の水音と共に下ると、道が分かれている場所に小川を背にした茶店があった。
茶店には人影が見えたが茶店は開いていないようだった。
マリア達は茶店の中で働いている若い男に言った。
「御免なすって。少し休んでいきたいんですが、茶店はまだ開いていないで。」
「へい、いらっしゃい。そこの縁台を出して休んでいってくだせえ。お茶くらいならお出しいたしやす。」
「ありがとうございやす。今日はお休みなんで。」
「ずっと休みだ。兵隊の野郎達が店を荒らしていきやがったんでこうして毎日修繕してるだ。一番ひでえのは便所だ。溢れるまでに撒き散らしていきやがった。あんたら娘さん達みたいだが、ここの便所は使わねえのがええ。ほんとにひでえんだから。」
「そういたしやす。兵隊さん達がこの道を通ったんですね。」
「大軍だった。突然来て、延々と続いていて途切れることはなかった。こちとら恐ろしくなって店を閉めることもしないで逃げ出してしまったんだ。ここに戻ってみると荒れ放題だった。くそったれめが。」
「そりゃあ災難でしたね。」
「あんたら山を下って来たのか。」
「さいです。」
「山から来た旅人はあんたらが初めてみたいだ。戦(いくさ)は終わったのかい。」
「さあ、どうでしょうか。山道には兵隊の姿はありませんでした。」
「そうか。大軍だったから進撃しているんだろうな。」
「道が二つに分かれておりやす。信貴国の城下町に行くにはどちらに行ったらいいんでしょう。」
「川沿いに真っ直ぐだ。左に行く道は山道だ。まあ間道(かんどう)だな。信貴国を通らないで他の国に行ける。あのくそったれ軍隊が通って来た道だ。」
「臭い道なんですね。」
「野糞街道ってことだ。」
マリア達は信貴国への道を選んだ。
暫(しばら)く行くと大国らしく立派な関所があった。
山が川に迫って来ている場所に砦のような威容を誇っていた。
竹矢来(たけやらい)は関所のずっと前から定置網のように関所の方に絞るように長々と立てられており、関所自体は高い土塀(どべい)で囲まれ、中が見えないようになっていた。
入り口は城の大手門のように2階建てになっており、2階部分には回廊と武者窓が付いており、分厚い両開きの門になっていた。
あたかも砦か出城の様相だった。
門には10人の門衛が長棒ではなく剥(む)き身の短槍を立てていた。
臨戦態勢なのかもしれなかった。
門の前の溜まりには旅人は居なかった。
マリア達は門の前で三度笠を外し、道中合羽を脱ぎ、畳んで腕に掛け、三度笠を小脇に挟んで門衛に言った。
「お役人様、御関所を通りたいんで。どうすればいいんでしょうか。」
「何だ、渡世人のくせにそんなことも分からんのか。」
「峠を越えて来やした。峠の向こうには関所はありませんので。宜しくお願い致しやす。」
「中に進んで面番所の前で控えればいい。」
「さいで。それじゃあ失礼致しやす。」
面番所は幅広の縁側の先に一段と高くなった板敷きの大部屋があり、10人ほどの役人が座っていた。
マリアが前に、娘達がその後ろに横一列に片膝を立てて控えると役人の一人が言った。
「在所、姓名、目的を言え。」
「代表してお答えいたしやす。あっしらは道の先、峠の向こうの湖の畔にあるマリシナ国の渡世人でございやす。あっしはマリアと申しやす。最近、世の中が騒がしくなりそうなので平和な土地に行こうとしておりやす。渡世人は平和な街でしか生きていくことはできやせん。」
「娘の渡世人か。めずらしいな。峠を越えて来たのか。」
「左様でございやす。」
「峠の様子はどうであった。」
「初めての道なので変化は分かりませんが、普通の街道でした。」
「軍は居なかったのか。」
「おりやせんでした。」
「変だな。・・・峠の先の国は福竜国だったな。福竜の城下町を通って来たのか。」
「一部ですが通って来やした。」
「戦が行われた様子があったか。」
「分かりやせん。福竜のお城の近くには行っておりやせん。でも街の辻には兵士が立っておりやした。あっしらは兵士は苦手で、目立たないように通り過ぎやした。」
「不思議な話だな。福竜は通り過ぎたのかもしれんな。・・・ふうむ。詮議に入るか。福竜からの旅人はこの半月で初めてだ。ふふっ、娘間諜集団であるかもしれんからな。・・・身なりは渡世人であることは分かった。渡世人であることを証(あ)かせ。」
「・・・難儀なご要求ですな。・・・質問して宜しいでしょうか。」
「何じゃ。」
「武士姿の者が武士であることを証(あか)すにはどうすれば宜しいのでしょうか。」
「・・・難儀な質問じゃな。・・・武術の腕を示すしかないかな。武士である証明書があるわけではないからな。」
「分かりやした。あっしらは喧嘩に強い博徒でございやす。お役人様とサイコロ勝負をして身の証(あかし)をしようと思いますがいかがでしょうか。」
「面白くなりそうだな。この関所は暇だからな。それでいい。・・・で、どうするのだ。」
「ツボの代わりに湯呑み茶碗を一つお貸しください。それと無地の手ぬぐいもお願いします。縁側に手ぬぐいを広げ、湯呑み茶碗にサイコロを2個入れて伏せます。茶碗の中のサイの目を当てる勝負でございます。3回続けて勝てば勝ちとなることでどうでしょうか。」
「あいわかった。」
「娘達、勝負したいものはいるか。」
「はい、マリア姉さん。」
全員が手を挙げた。
「・・・キウイ、お前が勝負しなさい。」
「はい、マリア姉さん。」
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