第45話 45、湖畔各国の状況 

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 大石国は街道の要衝だ。

大石国からは石倉国と五月雨国と白雲国への道が伸びている。

町も大きい。

マリシナ廻船の乗降客も多かった。

 マリア陸送大石国支所では乗降客の人力車需要が多く、20台以上の人力車を走らせていた。

車娘の待機場所は石倉国と同じように渡しの待合室近くと城下町内の2カ所で支配人は待合室も含めアケミだった。

 20台以上の人力車があれば20人以上の車娘がおり、車娘は強い仲間意識を持つマリシナ国の娘兵士で皆強い。

車娘が脇差を差しているのは刀で防衛する目的ではなく、むしろ、若い娘として侮(あなど)られて巻き込まれるトラブル(いざこざ)を避けるためだった。

 通常、積極的トラブルは金儲けを目的にしたヤクザが起こす。

大石国城下町のヤクザは狛犬一家と大勝一家であったが、大勝一家はマリア達による賭場荒らしにあって壊滅的打撃を受け、今では狛犬一家が城下町を牛耳っていた。

狛犬一家にはコヨリが次期親分として若頭兼養女になっていた。

そんな状況なので、マリア陸送の車娘は客に賭博場を問われると狛犬一家の賭場を紹介した。

大石国では問題は生じなかった。

狛犬一家の利権がそれほど影響を受けなかったからだ。

 大石国隣の白雲国城下町は問題が生じる蓋然性が高い町だった。

山から流れる「大河」が城下町を分断しているからだ。

街道も湖畔の小道も大河で途切れ、通行人は少し上流の渡し場で河を渡らなければならない。

大雨で川が増水すれば川止めとなり旅人は河の両側の宿屋に宿泊しなければならなかった。

 マリシナ廻船が白雲国に寄港するようになると大河河口の両岸を筏船による渡し船が通るようになり、旅人は安い運賃で天候に関わらずいつでも大河を渡ることができるようになった。

当然、大河上流での渡河業は客が減り、足止め客を見込んだ宿屋と賭博場は美味(うま)い汁を吸えなくなった。

 白雲国城下町を仕切っていたのは白鷺一家だった。

白鷺一家は対抗していた黒駒一家をマリア達の助っ人で潰し、筏渡しの利権を得、サトミを代貸にして河向こうを形式的に管理させていた。

自分は町の駕籠屋、馬問屋、飲食業、旅館、賭場などの客商売を独占的に仕切っていた。

 ところが、マリアはマリシナ廻船の寄港地側と対岸に待合室を建て、3小隊30人の兵士を常駐させ河口渡し業を始めた。

マリシナ廻船の寄港地が河向こうだったので河向こうには工場や倉庫や宿屋や土産物屋や住民の家が建つようになり次第に賑やかになっていった。

人間が多くなれば賭場を開くことができるようになる。

夜間は上流の筏渡(いかだわた)しも河口の筏船渡(いかだふねわた)しも行われないので賭場のお客は川向こうの人間だけだ。

 マリアは寄港地近くの旅館の近くに娘兵士1小隊10人による賭場を開き、代貸サトミを胴元にした。

賭場の壺振りは華(はな)やかな着物の片肌を脱いだ娘兵士の一人だった。

艶(あで)やかな壺振りはすぐに評判になり、多くの客が来るようになった。

河を渡って来る客もいた。

 その賭場は胴元も参加する鉄火場方式ではなく丁半博打方式だったので壺振りの腕はそれほど問題とはならなかった。

だが兵士の中から選抜された壺振りの娘兵士は自分が振ったツボの中のサイの目を音で知っていたし、ツボを動かして丁半を自在に変えることもできた。

 その賭場は(大政という男が胴元の横に座ってはいたが)美しく着飾った娘達だけの賭場だった。

客達は娘達が強い兵士であることを知っており、安心した。

要するに「健全な」賭場だったのだ。

サトミ一家は10人の娘兵士を身内に持つことになり、賭場の場所代が継続的に入ってくるようになった。

 白鷺一家の白鷺一羽親分はそれだけでも面白くないと思っていたのだが、マリアはさらに人力車業も始めた。

河のお城側に湖畔と街中に2ヶ所、河向こうにも2ヶ所の人力車の溜まり場ができ、そこには計40人以上の娘兵士の車娘が常駐している。

白鷺一家が仕切っている駕籠屋も影響を受けている。

マリア陸送の支配人は以前見たことがあるマリア一家のサオリという渡世人で、30人の兵士が行っている河口渡し業も同時に管理している。

 いくら腹立たしいとはいえ、マリア陸送に対しヤクザ得意な嫌がらせなどはできるものではなかった。

車娘は脇差を差して武装しており、待合室も槍と盾で武装した兵士が警備している。

兵士は一人でも圧倒的に強いことは分かっていたし、そんな兵士が人を殺すことを目的に槍と盾で武装した70人(渡し業30人、人力車業40人)なのだ。

殴り込みでもされたら一家は壊滅する。

しかも相手は旅人にとっても町民にとっても便利なことを行っているのだ。

正義は相手側にある。

 白鷺一羽親分は手懐(てなず)けて懇意にしている白雲国の役人に相談した。

「早乙女(さおとめ)様、早乙女様のお力で何とかならんでしょうか。人力車のおかげで駕籠の客は激減しておりやす。駕籠舁(かごかき)も毎日の生活が掛かっておりますんでさ。それに筏渡し近くの宿屋も売り上げが減っているって泣きついて来るんでさ。河口の筏船渡しはしょうがないとしても、せめて人力車だけでも『音がうるさい』とでも言って夜間の行き来を制限するわけにはいかないでしょうか。夜は静かな駕籠だけってわけで。」

 「そんなことができるか。相手は鍋田を二日で滅ぼしたマリシナ国だぞ。そのマリシナ国の殿様のマリア殿がマリシナ廻船と人力車を差配しているんだ。其方(そち)が知っているか知らんかは知らんが、隣の薩埵国では、マリア殿は関所破りと役人殺しを不問にしろって城に1300人の軍勢を引き連れて強訴し、城の橋を爆破して家臣20人を殺したんだぞ。薩埵の殿様は肝を潰されたようで、関所役人と捕り手役人150人が殺されていても全てを不問にしたんだ。しかもマリア殿にヤクザの一家を丸ごとくれてやった。その一家の親分は捕らえられて翌日には打首だ。子分どもは追放になった。マリア殿に逆らうってことは国が滅びるって言うことだ。うちの殿もマリア殿に逆らうよりは其方(そなた)を打首にする方をお選びになると思う。マリア殿に強訴でもされたらワシだって切腹になるかもしれんのだぞ。」

白鷺一羽親分は何も言えなかった。

そう、権力者は都合が悪くなれば無実の人間を打首にできるのだ。

 薩埵国城下のマリア一家は代貸のサーヤが取り仕切っていた。

マリア一家は小仏一家の家屋と縄張りを薩埵守恒殿様から貰った特殊な一家で、博打が公認されていた。

サーヤは座頭の市、三下の長次、三三のカブの子分等と共に賭場を開いていた。

場所代を稼ぐ丁半博打方式で、賭場改(とばあらため)がない安全な賭場だった。

 座頭の市は興に乗ると時々ツボを振った。

「いいでやすか、皆さん。座興にメクラのあっしがこれからツボを2回だけ振らさせていただきやす。ゾロ目が出たらあっしの勝ち。それ以外が出たら皆さんの勝ちです。よござんすか。ツボっ。」

 最初は66(ろくぞろ)の丁、2回目は12(いちに)の半だった。

賭けられたコマ札の数は最初が多く2回目が少なかったので儲けた客はそれほどいなかった。

客はツボ振りがサイの目を自在に出せることを知り、胴元が勝負に関与しない丁半博打方式が安心だと思った。

 薩埵国のマリア陸送薩埵国支所の支配人はアケビだった。

アケビはマリシナ廻船待合室の10人と車娘20人の娘兵士を支配人として支配していた。

廻船の下船客に賭場を問われれば安全なマリア一家の賭場を紹介した。

城下町にある大谷一家の賭場では鉄火場方式の博打が行われていたので鉄火場勝負を望む者には大谷一家の賭場を紹介した。

薩埵国では人力車の運行に対しての問題は生じなかった。

 福竜国にはマリア廻船の待合室付き兵舎があり、100人の娘兵士が住んでいた。

毎日80人の兵士が連結筏船船団の船頭と護衛になって働いていた。

マリアはそこに他の寄港地と同じようにマリア陸送を立ち上げ人力車業を始めた。

湖岸と城下町に溜まり場を作りそれぞれに10人の車娘を住まわせた。

マリアはそこに住んでいたが福竜国でのマリア陸送の支配人をサムタにした。

 福竜国はマリシナ廻船の出港地であり到着地でもあった。

廻船は朝の7時に左右に出発し夕方の6時に到着する。

例えば五月雨国から薩埵国に行く場合、2つの行き方がある。

一つは朝方五月雨国から時計方向の廻船に乗り込み、湖を4分の3周して夕方近くに薩埵国に到着する方法で、もう一つは夕方反時計方向の廻船に乗り込み、福竜で1泊し、翌日朝に出発して朝方薩埵に到着する方法だ。

前者は廻船の運送料が高くなり、後者は宿泊代がかかる。

客は自分の都合の良い方法を選ぶことになる。

 そんな理由からか待合室から城下町への道沿いには宿屋や土産物屋が建つようになった。

マリアは福竜城下町のマリア陸送の溜まり場の近くにマリア一家を立ち上げ賭場を開かせた。

代貸はヨシノとし、10人の娘兵士を子分とさせた。

マリア一家の賭場は白雲国のマリア一家の賭場と同じように丁半博打方式で、着飾った娘兵士達だけの賭場だった。

 ツボ振りは華(はな)やかな着物を着、片肌を脱いでツボを振った。

着飾った娘兵士達は客をもてなした。

賭場の客は娘達が兵士であり、恐ろしく強いことを知っていた。

娘達に悪さをする者は少なかった。

客は隣接する溜まり場の人力車に乗って安全に帰った。

福竜国にはマリシナ廻船の兵士が100人、マリア陸送の車娘が20人、マリア一家の子分が10人、総計130人の兵士が駐留することになった。

 五月雨国の待合室兵舎とマリア陸送の支配人はイクミになった。

待合室に10人、マリア陸送に20人、総計30人の娘兵士が五月雨国に駐留する形になった。

 各国にマリシナ国の兵士が駐留する形ができた。


石倉国:イビト支配人。待合室10人、マリア陸送20人。総勢30人。

大石国:アケミ支配人。待合室10人、マリア陸送20人。総勢30人。

(賭博場:狛犬一家、コヨリ若頭、子分は生物人間。)

白雲国:サオリ支配人。待合室30人、マリア陸送40人。総勢70人。

(賭博場:マリア一家、サトミ代貸、子分は娘兵士10人と大政。)

薩埵国:アケビ支配人。待合室10人、マリア陸送20人。総勢30人。

(賭博場:マリア一家、サーヤ代貸、子分は市、長次、カブ、他。)

福竜国:サムタ支配人。船頭80人、待合室20人、マリア陸送20人。総勢120人。

(賭博場:マリア一家、ヨシノ代貸、子分は娘兵士10人。)

五月雨国:イクミ支配人。待合室10人、マリア陸送20人。総勢30人。


 330人余りの娘兵士が生物人間社会の中に確固とした職業を持って生活することになった。

それらの兵士は中之島に上陸した1300人の兵士達から選抜された兵士だった。

中之島にはおよそ970人の娘兵士達が住むことになった。

そして隠れ村には新たに教育を受けた1300人の娘兵士が宇宙船から補充された。

マリシナ国国民の数は3900人になった。

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