第10話 なぶられ、いびられ、しいたげられて

 その人━━無鱒名さんはどういうわけか、少し威圧感を感じさせる笑顔を俺の方に向け、うさんくさい話し方をする。


 うさんくさいのは昔からだったと思う。でも、こんな笑い方したっけ?この人。

 俺は、なぜなのかを考え、先程の自分の発言の失礼さに気づいた。


「あっ、じゃなくて、無鱒名さん……。」


 俺はこの重厚な雰囲気に気圧されながらも、必死に言い直す。

 あんま会ったことないのと衝撃で、とっさにいっちゃったけど、呼び捨てはマズイよな。


「そうかー。急に呼び捨てときたかぁ。」

「あっ、あ、す、すみま……」


 俺は身体中に変な汗をかきながら、必死に謝ろうとする。


 だが、無鱒名さんは先程のうさんくさい飄々とした話し方からは一転、すごく低く、笑顔と同様、威圧感のある話し方でいう。


「まぁ、実際君は厚かましいもんね。」

「えっ……?」

「だってそうだろう?愛への弟子入り。」


 無鱒名さんはまたさっきのうさんくさい話し方に戻って続ける。


「君、誠陵の出なんだってね。あの忠とかを売りにしてる名門だろ?エリートじゃあないかぁー。」


 それから急にプッと口で音をならす。

 一緒なんの音かと思ったけれど、わざとらしく笑ったのだと気づく。


「でも、君は大の落ちこぼれ。そうだろ?昔会った時からわかってたよ。いつくさんが隠すのに必死な次男だもんね。噂になってるよ。」


 嘘……だ、ろ……

 目と喉がこれまでにないほど乾く。

 足元がおぼつかない。

 止まらない吐き気と頭痛。

 教室にいるクラスメイトも笑ってる気がする。

 前が向けない。自然と顔が下へと向く。


「だから、弟子入りもやめろよ。あー。無理かな?愛、美人だもんねぇー。だから四つも年下の女に夢中かぁ。」


 やめろ。


「でも、こんな落ちこぼれに構っていたら君とは違う貴重な時間がつぶれちゃうよー。愛の。」


 やめてくれ。


「こんなんじゃ、俺らの一緒に妖を喰いつくす作業に支障が出る。本当にやめてくれよ。」


 ━━え?


 俺はさっきのショックなんかを忘れてまた前を向き直す。


 だって、無鱒名さんがさっきとは打って変わって、下手したら泣いてしまうような、悲しい声でいったから。

 俺は逆に先程より動揺して、おろおろしてしまう。


 さっき前向きにした顔を左右にふってクラスメイトを見てみたけど、いつも活気付いて俺を馬鹿にしている奴らも固まっている始末だ。


「へー。そんな野望が。めんどくさいから三耽溺花やめよっかな。私。」


 そんなことをしていると、廊下から聞き覚えのある高い女声を平坦に使った声が聞こえてくる。


 俺が、まさかと思ってその声のした方を向くと、そのまさかだった。

 いたのだ。


 黒くて長い髪にピンク色の座った目をしたセーラー服姿の女の子が。


「生田目さん!?」

「ども。実くん。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る