第60話

 ニッタはとっさに振りほどこうとするが、さらに強い力で締め付けられ、苦悶の表情を浮かべる。


「うへえ!? なんなんっすかあ、これ!? 痛いっすよお」


「ニッタ! 大丈夫か?!」


「ハルキさあん、なんか苦しいっすよおお、助けてくださいいい」

 ニッタは苦痛に顔を歪ませ、助けを求めてくる。


「おい! やめろっ! ニッタから離れろっ!」


「フハハッ、もう遅いわ」


 そう言うとニッタの胸元に手を当て、その手から紫の霧のようなものが溢れ出し、ニッタの身体を包み込み、胸に吸い込まれていった。


「うがああっ! あぁ……あ……があぁ……」


 紫の霧が消え去ると、苦しんでいたニッタの身体から青い光が溢れ出し、一旦ニッタの身体に入り込んだ紫の霧を外に押し出す。


 さらに青い光が紫の霧を飲み込みニッタの身体に戻っていく。


「ほう、これを凌ぐ力は持っておったか」


 オルサスはそう言うと片方の口元を上げニヤリと笑う。


「おい! お前! 何したんだ!」


「ふむ、その力はお前たちの力になるであろうな。では、さらばだ」


「待てっ! おいっ! こらっ! まだ話は終わってねえぞ!」


「ふふっ、いずれまた会うこともあるだろう」


 そう言うと魔法陣が現れ、オルサスはその中に消えていった。


 それと同時に、周りにいた魔獣たちも姿を消していた。


 ――――――


 領主屋敷では、ハルキに背負われて戻ったニッタがベッドに横たわっている。


「おい、ハルキ。ハルキ。ハルキ!」


「んだよ、うるせえなあ!」


 ベッドに横たわるニッタを見つめながらハルキは怒りをツノダにぶつける。


「何があった? おい、ハルキ! ちゃんと答えろ! その黒いフードの男はオルサスって名乗ったんだな?」


「ああ、何回もそう言ってるだろうがっ!」


「そんでお前、そいつがなんでニッタにその紫の霧を? どういうことなんだ?! 何がなんだかわからんよ、どうなってんだよ?」


「わかるわけ無いだろ、俺にも。ただオルサスが言ったのは、『聖櫃の間のアブソースの紋章』、『すでに聖石の力を吸収している』、んでニッタへの紫の霧とその吸収、こりゃあ……」


「ハルキ、やっぱりニッタの身体にお前が埋め込んだのって」

「仕方なかったんだよ! あの時はああするしかなかったんだよ!」


「んだけど、ハルキ。このままニッタに黙っとく訳にはいかないだろう?」

「なんて言うんだよ! お前が死んだときに『聖石』がお前の身体に憑りついて、お前の命が助かったんだって言うのかよ! 言えるか、そんな事!」

 ハルキの大声で叫ぶ。


 二人の大声のやり取りにニッタがうなされるように意識を取り戻す。


「……んー、ここはどこっすか? 俺は確か……」


「起きたか、ニッタ。大丈夫か?」


「ええ、ハルキさん、ここどこっすか?」


「領主屋敷だよ。お前、なんともないか? 大丈夫か? どっかおかしくないか?」


「ハルキさん、そんなにいっぺんに聞かれても分かんないっすよ」


「ああ、悪い。ちょっと心配だったんでな」


「大丈夫っす。体は全然平気っす。むしろ前より調子が良いくらいっす」


「そっか、ならいいんだ」


「それよりハルキさん、なんか変なことが起きなかったっすか? 記憶が曖昧なんすけど」


「あ、ああ、お前が寝てる間にな、なんかヤバそうなオルサス? って奴がバーンってやってな。お前になんかしようとしたから、やめろって言ったらどっかに消えたよ」


「えっ?! マジっすか?! いや、良かったっすねえ、あのまま戦うことになったら大変だったっすよ」


「お前ら、それでいいの?」


「「ん? 何が?」っすか?」

 二人が同時に答えるのをみてツノダが頭を抱える。

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