領主代理

第24話

 ――― 半年前


 領主アシェク・ハマロが亡くなって十六年、妻アルネラは領主代行としてバルトンの町のため尽くしてきた。


 人口約四千人の小規模な町で東にツセロー川、西に穀倉地帯が広がる。帝都ニリネーレまで約二百キロに位置し、西のベリンやアクスバード、チェップシーへの主要ルートからも外れているため、ペイドルは陸の孤島などと言われている。


 亡くなった領主アシェクは善政を敷き、領民も安定した生活を送ってきたし、妻アルネラも夫の善政を引き継ぎ、来年にはアシェクの忘れ形見であるデュアンが成人し、正式に領主となる予定である。


 そんなアルネラには悩みが二つあった。


 一つは息子であるデュアンが領で雇っていた元魔導士ジュニーの息子、ファルケと親密すぎる事だ。


 元々自分でも息子デュアンを溺愛しているという自覚はあったのだがデュアンは最近、ファルケと共に食事を摂り、狩りに出かけ、何をするにもファルケと共に行動している。


 それだけなら大人になっていく過程での事だと思えたのだがファルケは日に日にデュアンと姿のだ。


 最近ではアルネラ自身にもどちらなのか見分けがつかないこともあるほど似てきている。


 亡くなった夫との関係を疑い、追い出したあの女魔道士ジェニーの呪いかとも考えたが他の誰にも話すわけにも行かない。


 そしてもう一つは、最近起きている遺体の消失事件である。病気で亡くなった一人の少女の遺体が忽然と消えてしまったというのだ。


 その後も事故、病気など死因は様々ではあるが一様に遺体が消えてなくなっている。


 領警察も初めはどこかの変質者の仕業だと考えていたようだが、遺体消失が立て続けに五件を数えるとさすがに領警察だけではことが大きすぎ、帝都警察本部への報告と捜査員の増員を行う他ないと署長が訴えて来ている。


 それをなんとかアルネラが押し留めているのだ。


 この領に誘致を進めてきたファンドリール開発との折衝が大詰めを迎えている今、こんな事件が明るみに出てしまえば誘致が水泡に帰してしまう。


 アルネラは今日も一人執務室で頭を抱えながら執務をこなしている。

 

 そんな母に息子デュアンが声をかける。


「母様。どうされたのです? お顔の色が優れないようですか。少し休まれてはいかがです?」


「ああ、デュアン。大丈夫よ、心配してくれるのね。あなたのその言葉がどれほど私を元気づけるか。それよりデュアン、お願いよ、以前から話している通り、ファルケと少し距離を置いてくれないかしら。そのことが私の心配事なのだから」


「体調の優れない母様にこのような事を言うのはなんですが、私はファルケとの付き合いをやめるつもりはありません。領主になってもファルケを私の下に付け政を行うつもりです」


「デュアン、ああ、デュアン。なぜ母のいう事を聞いてくれないの? 私はあなたのためを思って言っているというのに。あの子はだめなの、近づいてはいけないの!」


 この話になるといつもこうだ。デュアンは母のこの態度に苛つき、母は自分のいう事を聞かない息子に苛つく。


 それぞれがそれぞれの思いをすれ違わせていく。

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