第10話

 オーフィア帝国歴1236(聖王歴2023年)一月


「ハルキさん、ハルキさん、ハルキさーん! 寒いっす! 」


「見つめながら何回も名前を呼ぶなって言ってるだろ! 俺の名前呼んでもあったかくなんないだろ? ほら行くぞ!」


 雪が降り積もるルスコ駅の改札を出た二人は宿を目指して歩く。


 ニッタはよそ行きの茶色いスーツにベージュのトレンチコートを纏い、マフラーからのぞく頬と鼻を赤くしながら何度も叫ぶようにハルキに話しかけている。


 ハルキはいつもの青いスーツに厚手の黒いロングコートにスカーフ、黒い手袋に薄いサングラス姿だ。


「いやあ、まさか依頼主がミヤモトミヤ先生だとは驚いたっすねえ。て、そのカーラ聖石ってなんなんすか?」


「ああ? お前あの本読んだんじゃないの? 書いてあったろ、カーラ聖石のこと」


「あったっすかねえ? ぜんっぜん記憶にないっす」


「お前、古代文字のとこ読み飛ばしてるだろ? しょうがねえなあ。聖石っていうのはな、神の涙って言われてる物だよ」


「うへえ?! すごいじゃないっすかぁ!」


「だからあ、そんなのは嘘。どうせ珍しい宝石かなんかだろ、ニセモノだよ」


「またあ。でも、それに『憑いた』モノがいるって事っすか?」


「さあな。行ってみなきゃわかんねえな。しっかしホントよく降るなあ、雪」


「あれ? でもハルキさん、なんで書いてある事知ってんすか? あー! 読んだでしょ、ミヤモトミヤ先生の本!」


「うるせえなあ、俺だって本くらい読むんだよ、いちいち大声出すなよ」


 こうして雪の降りしきるルスコの町の宿屋に辿り着き、荷物を置くとさっそくミヤモトミヤの屋敷へ向かう。


 ――――――


 目的の屋敷に近づくとその屋敷から爆発音が響いてくる。


 ドゴオオオォォォォン!


 ガラガラッッ!!


 ズシャァァアン!!!


 続いて何かがぶつかる音。そして獣の鳴き声のような叫び声が聞こえてきた。


 バギィィイイイン!!


 バリバリバリバリ


 ガラララ!


「おい、ニッタ! こいつはまずいぞ。おい、行くぞ!」


「はいっす!」


 ハルキとニッタは門をくぐり、玄関に向かいドアを開ける。


 と、そこは暗闇が広がり、赤い蜘蛛の糸が張り巡らされているような景色が広がっている。


「ちっ! 始まってんのかよ」


 そうつぶやいたハルキがふと見ると目の前には、一人の女性がいた。


 歳は二十代半ばくらいだろうか、赤い髪に白いドレスの上に灰色のマントを着た女性が、肩を震わせて泣いている。


「おい! どうした? 何があった?!」

 ハルキが叫ぶが女性は泣いてばかりで返事がない。


「あ、ハルキさん! あの人、怪我してるっすよ! 早く助けないと!」

 ニッタが女性に近づこうとするとハルキが言う。


「待て! ニッタ!」

 ハルキがそう言うとニッタの動きが止まる。


 家の奥から無数の石でできた人形がこちらに向けて寄せてきている。


「なんだありゃ?!」

「わかんないっすよお」


「とにかくあの女を助けるぞ」

「了解っす!」

 ハルキとニッタは女性のところまで走る。


 ハルキは魔銃を素早く連射し石の人形を砕いていき、ニッタは短剣を抜くと素早く振り、襲ってくる人形を次々に斬っていく。

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