第20話 -イベント3- お茶会 ※一部マリア視点

 僕はお茶会のために寮でお菓子作りをしている。基本的にお茶会は各自色んな物を持ち寄ってやるのが基本らしい。


「クッキーで良いって言ってたけどこれぐらいで良いのかな」


 甘さ控えめでハーブが効いたスパイシーな物と甘さが効いたしっとりとしたクッキーを用意していた。


 クラウスは甘い物が苦手と事前に聞いていた。


「カイト、おはよう」


 匂いにつられてタンジェが調理場に降りてきた。タンジェは後ろから手を回し、丸め込むようにハグをする。


 昔と比べてタンジェのブラコン加減が強くなっているような気がする。デイリークエストの犠牲にし過ぎたのがその原因だろう。


「兄さんおはよう」


「何をやってたの?」


「お茶会のクッキーの準備をしてた。今日の放課後にマリア達とお茶会をすることになってね」


「こんな綺麗な顔が早起きして台無しだよ」


 タンジェは目の下を優しく撫でる。早くに起きてクッキーの準備をしていたため、目の下にクマが出来ていたらしい。


「そういえば、兄さんこれ味見」


 クッキーを一枚手に取ると、そのままタンジェの口に入れた。


「兄さん美味しい?」


「ああ、カイトが作ったものなら何でも美味しいよ。ってかあの令嬢二人には食べさせてもいいけど他の奴にあげるぐらいなら俺が……」


 タンジェはマリアとフローラが僕に興味がないことを知っていた。それよりもなぜか周りの男達を警戒している。


 クッキーに手を伸ばそうとするタンジェに僕は叩く。


「兄さんダメだよ! これはマリア達と食べるやつ」


「ははは、カイトは相変わらず可愛いな。お茶会に行く前に少し仮眠するんだよ」


 僕が怒るのを待っていたかのように、顔見て笑っている。両手で僕の頬を掴むと額に軽くキスをして去って行った。


「おでこにクッキー付いたんだけど……」


 僕の額にはタンジェが食べたクッキーのかすが付いていた。





 ウキウキしながら算数の授業を受けていた。決して授業が楽しいのではなく、お茶会が楽しみで仕方ない。


 お茶会といえばキラキラ美男美女の集まりだ。それを優雅に紅茶を飲みながら観察できるとは――転生してよかった!


 しかし、担任のウィンは勘違いしていた。ウィン先生は辺りを見渡し浮ついている僕を当てた。


「じゃあ、カイトここわかるか」


「えーっと、5です」


「正解、よく出来たな」


「じゃあ、次の問題は?」


「18です」


「おー、よく出来たな」


 ゲームの中だときっと知識ステータスは上がり、ウィンの好感度も少し上がっていただろう。


 乙女ゲームでは毎回の授業が大事だとゲームを買う前に聞いたことがあった。


 成績が落ちてクラス変更されたら、みんなと会う機会も減ってしまう。僕は再び授業に集中することにした。

 




 授業を終えた私と花子フローラは休み時間にさっきの授業について話していた。


「カイトさんなんか授業中ウキウキしていませんでしたか?」


「そうね。可愛さがダダ漏れでしたわね」


「フローラさんもそう思いました? ウィン先生もカイトさんばかり当てますし、他の男子達もカイトさんを眺めてましたわ」


 ウキウキしていたカイトはクラス全体にも伝わっていた。完全にモブになりきるのを忘れているのだろう。


「もう、クラウスさんなんてずっと見てましたわ」


 やはり推しのクラウス×カイトで妄想していた。クラウスなんて、授業を聞かずにずっとカイトを見ていた。


 どこか甘酸っぱい感じも学園モノBLの魅力の一つだ。


「やっぱり私達は客観的に見てるに限るわ。ってまたクラウスが呼んでるよ?」


 カイトと話をしているクラウスが、私達を呼んでいた。私達は二人の元へ向かうことにした。


「どうしました?」


「カイトがウキウキしている理由を知っているか?」


「ちょ、クラウス別に言わなくてもいいんじゃんか」


 カイトとクラウスがじゃれあってる姿を花子フローラは見逃さなかった。目は大きく開き、血眼になるくらい見開いている。


 ああ、私がレオンとカイトの絡みを見ている時は、こんな目をしているのかと若干引いてしまった。


「それがどうされたんですか?」


 すぐに視線を戻しクラウスに話しかけた。


「実はお茶会が楽しみでウキウキしてるんだって!」


「お茶会……ああ、可愛い」


 あまりの可愛さに手を目の上に置いた。尊いを超えて涙が溢れ出てくる。


 こんな健気なことを脳内で犯していた自分を死刑にしたいぐらいだ。


「もう何で言っちゃうのかなー。だって初めての友達と遊ぶんだしウキウキするもんでしょ?」


「はぁー、カイトはやっぱり可愛いよな」


 クラウスはカイトの頭を撫でると、その様子を見ていた花子フローラの口元からよだれが溢れ出している。


「二人とも大丈夫?」


「はぁっ!? 私としたことが!」


「あら、私ったら二人の仲の良さを見て感動してましたわ」


 私は急いでカーテシーをして、花子フローラは笑顔全開の微笑みを振り撒いた。転生スキルって無いことにできるのが魅力の一つだ。


「しっかりと準備しないといけないわね」


 授業の合図を伝えるチャイムが鳴り、再び私達は席に戻った。

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